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ポケモンの世界に来て数日が経った。
どうやら本当にトリップしたらしい。というのがここ数日を過ごして得た結論である。五感はばっちりだし、痛覚も良好。空腹はあるし、意識もはっきりしているとなれば、そう思わざるを得なかった。トリップと言えば、向こうで死んでいない限りいずれ帰る時が来るというのが王道なので、その時が来るまでこの世界をめいいっぱい楽しむことに決めた。ちなみにここは自然の迷路と言われるトキワの森らしい。アニメの世界にせよ、ゲームの世界にせよ、フラグが立ちそうな場所である。
生まれて初めて経験する野生的生活は、ピカチュウ達がいるおかげか全く辛いものではない。湖の水は案外綺麗だし、木の実しかないけどご飯だってきっちり三食ある。お風呂は水を浴びたりするだけで物足りないけど、野生的生活を送っている上で仕方ないことだと割り切った。森の中を駆け回るせいで服がぼろぼろになってきたのも……割り切った。
ピカチュウ達は時々、どこからともなくタオルやパンなどを持って来て私にくれる。盗んだのかなあ…と思うけど、やっぱり欲しいので素直にありがとうと受け取る。名も知らない被害者さんごめんなさい。少しくらいまともな生活を送りたいんです。
部活を止めてから更にインドア派となった私だが、ピカチュウ達と駆け回って遊んでいるうちに、脂肪が少し落ちて筋肉に変わり始めた。トリップ前に比べてちょっぴり細くなったような気もする。なんとも嬉しい限りだ。その代償に、度々スピアーやらラッタやらに追い掛けられるんだけど。もちろん、追い掛けられるのは私のせいではなく、ピチューの弟くんのせいだった。
彼は悪戯好きのおっちょこちょいで、何かとトラブルを引き起こすのだ。対してピチュー兄は、甘えん坊の天然さん。弟に比べて多少はしっかりしているものの、まだまだ子供だ。ピカチュウはしっかり者の兄貴肌なのだが、時々茶目っ気のある男の子。
そんな彼らに、最近あだ名を付けさせてもらった。ライチュウは一匹しかいないけど、ピカチュウは数匹、ピチューは二匹いる。ピチューと呼べば二匹が返事をし、ピカチュウと呼べばピカチュウ皆が振り向く。それでは困るので、特に仲のいい三匹だけに。
ピチュー兄弟は、兄と弟ということでニイとテイ。ピカチュウはピカでも良かったけど、安易過ぎるかなと思い、ピカチュウの文字の中から選んでチカと呼ばせてもらうことにした。
木の実を頬張り、森を駆け回り、草のベッドで寝て、ご近所さんのキャタピーやコラッタ達ともそこそこ打ち解け、チカ達の言いたいことが五割くらい分かってきた近頃、ニイとテイとチカと私の仲良し4人組はトキワの森を訪れる人に悪戯することにハマっていた。
数日間に渡って続けていれば、トキワの森に悪戯好きのポケモンがいるという噂が流れ始め、捕まえてやろうと思う人も現れた。けれど、私もこの世界に来て鍛えた運動神経のおかげで、野生の生き物みたいにほんの少し気配が分かるようになり、誰かがいるなと思うとそこには近づかないようにしているので、今のところ見つかったことはない。八割が木の実をしめる食事と、適度な運動、毎日欠かさずしているトキワの森散歩のおかげである。加えて言うなら、ターザンごっこはなかなか様になっていると自負している。
トキワ付近で噂になる悪戯と言っても、肩をとんとんと叩いて姿を消したり、茂みの中からガサガサと音をたてたりと可愛らしいものだ。たまに道具や食料を頂くのはご愛嬌。迷った子がいれば出口まで導いてあげたりと奉仕活動もしているので、プラマイ0というところである。
そんな日々を送っていたある日、チカが今までの中で一番の収穫物を持って帰って来た。

「これは……?」
「ピカチュウ!」

渡してくれた物を持って固まる。誇らしげにしているチカには申し訳ないのだが。

「さすがにこれは駄目なんじゃ……」

チカが持って帰って来たのは、ナギサジムにいるジムトレーナーの女の子、確かチマリちゃんという子が着ていたタイプのピカチュウ成りきり衣装だった。





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