08
「なんでぇえ!?」
走ったばかりで重い足を懸命に動かす。地面を蹴っても蹴っても進んでいる気がしないのは、ブーンという音が次第に近付き、両脇に追い付いたピチューとピカチュウが並走しているから。疲れた、しんどい。けれど止まれない。止まったら蜂、ではなくスピアーの毒たっぷりの針に刺されることになるのだ。
どうしてこうなったのか、何でスピアーが追いかけてくるのか。気にはなるけれど、そんなことを考える暇があるなら走ることだけに集中しろと自分を叱咤し言い聞かせる。鳥肌が立つような羽音がすぐ側まで迫っていた。スピアーとの距離を確かめたいが恐くて振り向けない。
「ピカチュウ、十万ボルトとか、出来ないのっ!」
「……ピッカ」
「ええ!何その"あ、そっか"って顔!」
並走していたピカチュウは走っていた足で地面を踏ん張り反対方向、スピアーに向かって跳んだ。ピカチュウの体が電気を帯びてパチと音が鳴る。
「ピィカァチュゥウ!!」
ピカチュウから放たれたジグザグに折れた電撃の波がスピアーに襲い掛かる。眩しい光の波はスピアー達に直撃した。電気を浴びて体が焦げ、少し黒くなった彼らはプスプス音をたてながら地面に墜落した。
「すご…」
生で見る十万ボルトに感嘆の息がもれる。スタッと地面に降りたピカチュウは胸に手を当てて、ふうと息をついた。ピチューもこてんと地面に座り込む。抱っこしていたピチューだけは、身を乗り出して焦げたスピアー達を興味津々に見ている。疲れた様子が微塵もないピチューを見て、自分で走ってもらったら良かったんだと思っても今更だ。
「ねえ、何で追いかけられてたの?」
「ピカピカピカピィカピィカピカピカ!」
「ピチュピッチュピチューピチュ!」
「ごめん分かんないです」
一生懸命話してくれてるピカチュウとピチューには申し訳ないけれど、彼らに聞いても理解出来ないのに尋ねても無駄だということを、返答されてから思い出した。
分からないと言われて落ち込むピカチュウ達を必死に慰めていると、未だに腕の中にいるピチューが私の手をペシペシ叩いた。
「ピ、ピチュ!」
「ん?」
ピチューの指差す方を見れば、倒れていたスピアー達が僅かに動き始め、身を起こそうとしている。もともと追いかけてくるほどに怒っていたみたいだった彼らにその上十万ボルトを浴びせたのだから、怒りが頂点に達していてもおかしくない。
「に、逃げよう!」
その一声でまた皆一斉に、スピアー達から逃れるため走りだしたのだった。
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