13
走る。走る。走る。
どこへ?どこに行けばいい?先頭を行くチカの背中を必死に追いかけながら、テイを抱える腕に力をこめる。ごちゃごちゃ考えている割に、意識は別にあるように静かだった。
どうしてこんな事態に?確かにちょっかいを出したのはこの子だ。けど、彼らは悪戯の犯人を探しているような事を言っていた。少年と会う前から思い、たった今も感じていることだが、やはり虫取り少年の声もバトルをする音もしない。このことと少年の言葉から推測すると、トキワの森一帯は立入り禁止になっているのだろうか。…でもまさか、私たちを捕まえるためにこんな大掛かりな事までするはずが無い。盗みを働いた事は一度だってないし、悪戯も驚かす程度のもの。そんな些細な悪戯の主犯を捕まえるためだけに、ここまでする必要がどこにあるのだろうか。
前を行くチカがスピードを落とし、止まった。こちらを振り返って、もう大丈夫だろうと言うように一声鳴いた後、駆け寄ってきて足をぺちぺちと叩いてくる。
「ピカチュ」
その視線からテイのことだと分かったので、チカに見えるように屈む。隣にいたニイも側に近寄ってきた。のぞきこむ二匹と一緒に改めてテイを見ると、時折パチッと小さな電気を爆ぜさせながらぐったりしている。
「ピカピ…」
「チカ?」
心配そうにテイを見ていたチカがふと何かをつぶやいた。突然くるりと踵を返すと、そのまま森の奥へと走り始める。慌てて追おうとしたが、ニイが靴を掴んで引き止めてきた。
「ニイ?」
「ピチュピチュ!」
ぐいぐいと引っ張るニイに近くの木の根元に連れて行かれ、彼はポンポンと地面を叩いた。ニイはここにいろと言いたいのではないかと思いながら、腕に抱くテイを揺らさないようにしてゆっくりと木の根に腰を下ろす。
「チカを待つってこと?」
「ピチュ」
こくんと頷いて、ニイはテイの顔をのぞきこんだ。
「ピチュウ…」
耳をへたりとしょげさせてじっとテイを見つめるニイ。その様子が見ていられなくて、思わず「大丈夫だよ」と言いそうになり、はたと口を閉じた。どこを見て大丈夫と言えるのだろう。何も出来ないのに、私はただこの事態におろおろするだけで。今どこかに向かったチカは、テイを助ける何かの術を知っているのだろう。そのチカの帰りを待つことしか出来ない私の「大丈夫」という言葉なんて、少しの気休めにしかならない薄っぺらいものだ。口先だけの大丈夫で、安心できるわけがない。
けれど代わりの言葉も見つからなくて、そっとニイの頭を撫でれば、ニイに遣っていた視線を上げて縋る様に見つめてきた。それに力強く笑いかけるなんて出来もせず、結局私がニイに向かって見せたのは困ったような微笑だった。
「ピカッ!」
聞こえた声に弾かれたように顔を上げると、何かをくわえたチカが戻ってきたところだった。近付いてくることによってはっきり見えた何かは木の実。全速力で駆けて来たチカは、くわえていた木の実をテイに食べさせようとする。それは何度も見たことのある形と色をしていた。端的に表すなら青いみかん。
「…オレンの実?」
その効果は確か、体力回復。
チカは声をかけながらテイの口元に実を寄せていたが、食べようとする様子が見られない。自分で食べれないと分かると、チカは実を小さく齧ってその欠片をテイの口内に転がした。
喉を詰まらせないようテイの頭を立たせるように抱え直すと、テイはもごもごとゆっくり口を動かしてオレンの実を呑み込んだ。
「ピチュ……」
「これで元気になるかな…」
「ピ…」
チカは耳を垂らしてふるふると首を振った。分からない。彼は力なくそう言った。
現状に変化が起きるかとしばらくテイの様子を皆で見守っていたが、あまり好ましい変化は訪れない。
どうしたらいいのだろう。放っておいてよくなるものか、それとも適切な治療が必要なほどのものなのか。画面をタッチして全てを治療してきた私に、適切な判断が出来る知識は無かった。ぐったりしているテイを見守るだけの今、気持ちばかりが焦った。
← →
ALICE+