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ぐるぐると回る思考。今まで生きてきた中でこういう事態に陥った時、すぐさま駆け込んだのは病院。そこに行けば大丈夫、と誰にでも頭の中にインプットされている知識。そしてそれが当たり前だった。
「……ポケモンセンター」
ぽつりと口からもれた言葉。それに自身がはっとする。あそこはたしか、持ち込んできた野生のポケモンも診てくれるはず。
「チカ、ポケモンセンターに行こう」
「ぴ?」
「私、どうしたらいいか分かんないから。ポケモンセンターならジョーイさんがいるから、きっとテイを元気にしてくれる。…ニビシティに案内してもらっていい?」
私を見上げたチカにそう言うと、瞬きを二回するくらいの少しの間があった後に、こくりと頷いた。
この子たちは野生だから、ポケモンセンターを知らないのかもしれない。だから、テイをジョーイさんに渡そうとしたら怒るかもしれないと思ったけど、見ず知らずの人間である私を受け入れてくれた彼らだ。人間嫌いでは無さそうだし、大丈夫だろう。
おろおろするニイにピカ、と声をかけて、チカは走り出した。私も立ち上がって、不安そうな表情のニイの頭にポンと手をのせた後チカを追う。同時に走り始めたニイは、私と平行するように隣を駆ける。
森の中を走る私たちを、野生のポケモン達は何事かと見てくるのが分かった。そして、また悪戯かというように視線を逸らす。そのくらい私たちの所業は日常茶飯事なのだ。森のポケモン達にとってはいつもと同じ光景の一部分。それがいつも通りじゃないのは、そうとはっきり知っているのは、少年に出会った私たちだけだろう。
トキワの森は自然の迷路。だけどその森に住んでいる者にとっては、ただの巨大な庭。迷うことなくただまっすぐに駆けるチカと、その少し後ろを行くニイ。私はニビシティへ行ったことがないから、二つの黄色を道案内に獣道を走る。
時々腕に抱くテイに視線を落としながら、乱れ始めた息が二匹に聞こえないように気を張って呼吸をする。いくら野生生活になれたとはいえ、まだ数日目。一週間は経ったが、1ヶ月には達していない。それに体が鍛えられたと言っても、それは前よりかは、という話だ。多少筋肉がついたからといって、すぐに速く走れるようになるわけじゃないし、長い距離を息も切らさず駆けていくことが出来るわけでもない。あの少年から全力疾走で逃げて、少しの休憩があった後今度は長距離を走るなんて、前の私では考えられないことだ。それだけに、今とてつもなくしんどい。
「ピカピ!ピカチュウ」
走りながら顔だけ振り向いて、チカは私に向かってそう言った。よく、分からないけど…。
「(私を励ましてるんだろうか)」
チカ達との会話に慣れてきたとはいっても、完全に理解するにはまだまだ付き合いが短い。この場合、死にそうな顔つきで走る私を励ますものなのか、テイの様子を心配するものなのか、私には理解しきれなかった。いつもは表情と身振りで判断するが、今は身振りもなく表情もどっちに向けてもおかしくないものなので、余計にややこしい。どういった対応をすべきか悩んでいると、チカがスピードを落として私のすぐ前についた。
「ピカチュウ」
「て、テイなら、悪化、は、してない、よっ」
「ピカ、ピカピ」
「え、私っ?だ、だいじょばない、けど、頑張る…!」
「ピチュー…」
はは、ニイにも心配されてるよ。二匹に向かってへらりと笑って見せた。
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