15



道無き道を駆け抜けた先、草むらを掻き分け着いた所はニビシティの町外れ。ここからまっすぐ行けばニビシティの中心街に着くだろう。久しぶりの民家に感動しつつ、さらに一歩踏み出したところで、はたと立ち止まる。私の今の格好はピカチュウ成りきり衣装。……これで町中を歩くのか?
躊躇したが、それも一瞬のこと。すぐにもう一歩踏み出して駆け出した。非常事態だもの!止むを得ない!
チカとニイを引き連れ、赤い屋根を探す。町の中に進めば進むほど、次第にすれ違う人が増えていく。道行く人の視線がこちらに向けられているのを感じ、顔を少し俯かせた視界の端に、赤い屋根がちらついた。弾かれたように顔をあげると、見えたモンスターボールのマーク。

「あそこだ!」

ポケモンセンターに行く道を通り過ぎかけていた足をすぐさま方向転換して、左手の道に入る。汗が首を伝うのを感じた。あと、あと少し…!
完全に見えたポケモンセンターの入り口に向かって走ると、ちょうど誰かが出てきたようで、自動ドアが開いた。
ラッキー!今のうちに、と施設の中に飛び込む間際、出てきた人が顔をあげてこちらを見た。無意識に完全に焦点をその人に合わせれば、ばちりと重なる視線。
え、まじで?思わず目を丸くして見た先にいたのはブラッキーの少年だった。
ハッとしてすぐ視線を反らし、ジョーイさんのもとへ急ぐ。向こうにとって私は初対面だから、大丈夫。気付いてないだろう。抱えているピチューがあの時のピチューだなんて思わないはずだ。
カウンターでパソコンをつついていたジョーイさんに近付くと、彼女は顔をあげた。

「どうしました?」
「あ、のっ!この子、調子が悪くてっ、オレンの実、食べさせても、良くならない、んですっ」

そう告げながらテイを見せると、ジョーイさんはラッキーを呼んで、私の腕からテイを受け取る。チカとニイは私の足を伝って肩によじ登り、ジョーイさんに渡ったテイを心配そうに見つめた。
わわ、今足ガクガクしてるから登らないで欲しいんだけど…!耐え切れずカウンターに寄りかかるが、二匹の目にはテイしか映っていないようで、私に見向きもしない。ひ、膝が笑ってるんだってば…!
ジョーイさんはテイを見て、軽く触診をしたあと私に向き直った。

「大丈夫。攻撃された傷に加え、慣れない電気を使って酷く疲労しているだけでしょうから、ちゃんとよくなりますよ。ただ、一日休息が必要です。こちらで様子を見ながら休ませるので、あなたも一泊してもらうことになります。トレーナーカードはお持ちですか?」

大丈夫と言われてホッと気が緩むが、ジョーイさんのその言葉に緩んでいた気が一瞬にしてピシッと固まる。トレーナーカードはこちらでいう身分証明書のひとつだ。トレーナーで無く、さらにはこの世界の住人ですらない私は身分を証明するものを何一つ持っていない。脳ミソをフル回転したけど上手い言い訳が出てこなくて、どうにか誤魔化せないかと取り敢えず息が整ってきた口を開く。

「あ、では、明日、また迎えに来ます」
「でも、この子も近くにトレーナーがいた方が安心すると思うわ」
「え、と、あの、私トレーナーじゃなくて……」
「まあ、その年で珍しいですね。それなら、何か身分証明を出来る物をお持ちですか?」
「い、いえ。今手ぶらの状態で……」
「そうですか」

ど、どことなく話が噛み合ってない気がする。だらだらと冷や汗をかく私に反して、ジョーイさんはにっこり笑った。

「それほどまでにピチューが心配だったんですね。ラッキー、ピチューを診察室に連れて行って。……では、この紙に名前と住所を記入してください」

側に来たラッキーにテイを手渡して、ジョーイさんは一枚の紙とボールペンを取り出し、カウンターの上に置いた。ジョーイさんの中で私が泊まることは決定事項らしい。



ALICE+