24
世界一のポケモンマスターになってやる。そう豪語する少年が好きだった。真っ直ぐで、ポケモンのためなら体を張って、何事にも一生懸命で、夢は昔から揺らがない。テレビで見て何度胸が熱くなっただろう。映画を見て何度泣いただろう。
そんな少年に、私は出会ったことがない。同じような子を探してもきっとこの世にはいない。これはたぶん無い物ねだりってやつだ。
「おれはマサラタウンのサトシ。こいつは相棒のピカチュウだ」
挨拶する度いろんな人と知り合って、旅を通して様々なことを経験して行く。出会いと別れを繰り返し、立ち塞がる壁を乗り越えて、ひたすらに突っ走る。
彼と旅が出来たならどんなに楽しいだろう。たくさんの仲間と共にいられるのはどんなに嬉しいだろう。
画面越しに見るその度に、羨ましくて仕方がなかった。彼と立ち位置を代わりたいとかじゃなくて、彼と一緒に旅がしたかった。
会いたくても会えなかった彼をポケモンセンターのテレビで見た瞬間、何か熱いものが込み上げてきた。声を出せば言葉が震えそうだった。――サトシだ、サトシだ…!
今までと同じ画面越しでも違うのだ。映ったのはアニメなんかじゃない。本物の人間だ。会いに行こうと思えば会えるのだ。私は今、彼と同じ世界にいるのだから。
「おれはマサラタウンのサトシ」
「はじめまして、私はナツミ」
願いやろうと決意すれば、そう自己紹介できる距離にいるのだから。
「ピチュー」
「あれ、ニイもう食べ終わったの?早っ」
「ピチュピチュー」
「ピィカァ」
「ピチューウ!」
満足気にぽんぽんと膨れたお腹を叩いているニイを見ていると、向かい側でチカとテイが揉めているような声が耳に入った。そちらに目をやれば、アイスを食べているチカに向かって、ニイが手をのばしていた。チカは嫌々と首を振っていたが、しばらくしてピチュピチュ鳴いているテイとアイスを見比べてひとつ息をつく。
「ピィカ、ピカチュウ」
「ピ!」
チカがテイの皿を指さして言うと、テイは大きく頷いてポフィンを一つチカに差し出した。それを受け取ったチカは、両手で持ったスプーンでアイスを掬い、テイに食べさせた。どうやら揉め事は解決したようだ。
その様子を見守りながらお味噌汁をすすり、ご飯を口に運ぶ。うん、やっぱり日本って素晴らしい。
「ねえテイ、ポフィン一つ頂戴?甘いやつ」
「ピ!?」
「あ、一齧りでもいいからさ」
「ピチュウ……」
「味見したいんだ。ね、ちょっとだけ」
パン!と両手を合わせてお願いする。テイは、ええー…と言わんばかりに、お皿と一緒に身を引いていたが、渋々ピンクのポフィンを一欠片くれた。テイの手のひらサイズだ。
お礼を言いながらそれを受け取って、ぽいっと口に放り込む。……ふむ、甘い。これはなかなかにいけるぞ。お菓子みたいだ。
「ねえテイ」
「…ピチュ!」
「そんな警戒しなくてももう取らないってば。…ねえみんな、明日もここに来ていいかな?」
「ピチュッ!」
「ニイ、さすがに明日は食堂を利用出来ないよ。食堂のみの利用だったらお金がいるから。…あのね、ちょっとテレビが見たいんだ」
三匹は不思議そうに首をかしげながら頷いた。ニイは食堂目的ではないのかと残念そうだ。
食いしん坊だなあニイは。なんて、何回目になるだろうことを思いながら、上がる口角をそのままにニイの頭をなでた。
← →
ALICE+