26
キトという名前だと彼女は名乗った。どこに住んでいるのか聞かれてトキワの森と答えると、大層驚かれた。それから、困ったことがあったらいつでもおいで、と言って下さった。久しぶりに人と接したけれど、人ってこんなに暖かいものだっけと、優しい世界に少し戸惑う。そういえば、ポケモンの世界はほとんど親切な人で構成されているんだということを思い出した。悪の組織あったり、悪いことをする人がいたりするけれど、基本的に良い人ばかりだ。
キトさんと別れて、ようやくトキワの森に到着。草の茂る地面を踏みしめて、奥へ奥へと進む。見慣れた湖が姿を現すと、なごやかな気持ちがじわりじわりと全身に染み渡った。私の体はすでに、ここが自分の家だと認識しているらしい。
先々駆けて行っていたテイが足を止めて、湖に手を突っ込む後ろ姿に近寄る。
……さて、と。
「テーイ?」
「ピチュ?」
振り向いたテイに、にっこりと笑いかける。
レッツお説教ターイム。
「みんなに言うことあるよねえテイくん?」
それを皮切りに、怒涛の言葉を浴びせる。テイが驚きのあまり硬直している中、チカとニイはあわあわとしていたが、私が喋くりまくるにつれて納得したように落ち着きを取り戻した。
だって、心配したんだ。もしかしたらテイが目を覚まさなくなるんじゃないかって。自分勝手にブラッキーにちょっかい出して、そのくせ返り討ちにあってぶっ倒れて。元気になって嬉しいけれど、あんなことはもう懲り懲りだ。
お説教なんてしたことがないから支離滅裂、文章めちゃくちゃ、噛みまくり。仕舞いには感情が高ぶって涙まで出てくる始末。
「し、心配したんだよテイのバカぁああ!」
普段からやんちゃなテイに説教なんて今更な話。長年連れ添っているチカ達ではなく私が怒るのもきっとお門違い。うん、分かってるよ。
だけど。
「ぴぃか」
ポンポンとチカに背中を撫でられる。泣かないで、と言うようにニイが私の頬に零れる涙を拭う。
ぐしぐしと涙溢れる両目を手で擦って、おろおろしているテイを見た。
「…ごめん、変なこと言って。でも、もし捕まったら助けてあげられないかもしれない。だから、」
「ピチュ」
ぎゅ、とテイが私の手を握った。首を縦に振って、テイはにっこり笑う。
「ピチュピチュウ」
「もう、あんな危ないことしない?」
「ピィー…」
ゆっくりと頭を傾げて、数拍後にテイは少し頷いた。
その様子に思わず笑ってしまう。
「怪しいなあ」
でも、テイらしいと言えばらしいか。
「じゃあせめて、あのブラッキーみたいな強いポケモン相手に悪戯するのはやめてね?」
さすがのテイもあのブラッキーの強さは身に染みているのか、それにはすぐに頷いた。
← →
ALICE+