02



考える順番を間違えたと思う。なんでバカみたいに延々と夢か否かを考えていたんだろう。そんなことよりもっと大事なことがあったのに。

辺りは薄暗く、夜が訪れようとしていた。そんな中、未だに木の根元にいて、頭をかかえる。
――どうしよう、今晩野宿?
ここがトキワの森的な何処かの地方の森だとして、取り敢えず森から出たとする。でも知り合いなんていないし、ポケモンセンターに泊まろうにもトレーナーカードがない。ポケモン連れてないからカードの作成も出来ないだろう。それ以前に、作成に戸籍が必要だったら絶対に無理だ。
初めて会った人に泊めて下さいと言えるほど図太い性格じゃないし、人に自分の状況を上手く説明できるなんて口下手な私には到底無理な話。そろそろ大人の部類に入る人間がポケモンの一匹も持っていないなんてこの世界では珍しいことだろうから、その時にいろいろ質問されたら終わりだ。当たり障りなく辻褄が合うように、そしてこの世界の人ではないことを隠して話すほどの技術はない。バレたら絶対変な目で見られるって分かってるから、尚更話すのは戸惑われる。嘘は苦手じゃないけど、嘘をでっち上げていつバレるかとひやひやし続けるのは勘弁だ。恥と我慢なら絶対に我慢をとる私だから、テコでも森から出ようとしないだろう。しかも話す話さない以前にセーラー服に素足の時点で恥をかくこと間違いなしだ。
限界が来たのか、とうとう、ぐうぅとお腹の虫まで文句をたれだした。朝ごはん食べてから何も口にしてないもんねえ……。
お腹を手で押さえ、じっと睨む。
……お腹すいたなあ。

「うう、夢なら都合いいように用意してよー。トレーナーカードとか、お金とかさあ」

途方にくれて泣きそうになりながらぐずぐずと愚痴ったその時、木の脇の草むらが、がさがさと揺れた。
な、何だろう。アーボとか凶悪的なポケモンだったら……!
身の危険を感じて心臓をばくばくさせながら、じっと様子を伺っていると、揺れる草むらからぴょこんと先端が黒の黄色い耳がとび出した。
これってまさか。
続いて草を掻き分け出てきた馴染み深いその姿。某主人公や原点にして頂点の赤い方が連れている、ポケモンの中のポケモン。不意にこっちを向いた赤いほっぺたが特徴のポケモンとバチ、と視線が重なった。
ぴ、ピカチュウだ……!
ピシャーン!と雷が落ちたかのような感激に打ち拉がれる。
目が合ったピカチュウは二本足で立ち、首を傾けた。

「ぴか?」
「……ぴか?」

ピカチュウの真似をしお互い首を傾け見つめ合う。

「ぴかちゅう」
「ぴかちゅう」
「ぴ?」
「ピカチュウ?」
「ぴか、ぴかちゅう」
「ぴぴぴかちゅー」
「ぴっか!」

真似したり適当にピカピカぴかちゅう言っていたら、ピカチュウは声を明るくしてぴょこぴょこ駆け寄って来た。ごめん、何言ってるのかさっぱり分かんない。
近くまで来たピカチュウはくんくんとセーラー服に鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。
アニメ画だからこそのかわいさであって、リアルな動物だとちょっともかわいくないんじゃないか。そんなことを想像したこともあったが、こうしていざお目にかかると、ピカチュウは普通に可愛かった。犬や猫がかわいいと思うのと何も変わらない。
ひとしきり嗅ぎ終わったらしいピカチュウは、首をこてんと傾げてこちらを見上げてくる。
え、なに?

「ぴぃか?」
「……ごめん、もしかして臭かったとか?」

ピカチュウは左右に首を振った。それを見てホッと一安心した時、お腹がぐうぅと二度目の悲鳴をあげた。
ピカチュウは音の発信地をじっと見ている。恥ずかしい。
不意にピカチュウはくるりと体の向きを変えて、出てきた草むらの中に帰って行った。

「行っちゃった……」

いっそう暗さを増した森の中、ポツンと言葉が響く。さわさわと木の葉が風に揺れる音だけが耳に届いた。そういえば、まだコイキングとピカチュウしか見てないっけ。キャタピーとかいそうな雰囲気なのにな。
あーあ、お腹すいたなあ……。





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