03
がさがさ、とまた草むらが揺れた。
今度こそアーボ……!?
とっさに戦闘態勢になったところに現れたのは、ピカチュウ。おそらく先程と同じ子。帰ってきてくれたんだ!
「ぴーか」
とてとてと歩いてきて、ピカチュウがさし出したのは桃のような木の実。
「……くれるの?」
「ピッカチュ」
にっこり笑ってこくんと頷くピカチュウ。あわわ、可愛すぎる!
見知らぬ人間に食べ物をくれる優しさに感動しながら、ピカチュウに深々と頭を下げた。頭をかいて照れるピカチュウに笑みがもれる。そして、モモンの実と思われるピンクの味を口に入れた。噛んだとたん柔らかい果肉から甘い果汁が溢れ出てくる。今まで食べたどの桃よりも美味しくて、目を丸くした。
「おいしっ」
空き空きのお腹が満たされてゆく。そうだろうと言うように、うんうんとピカチュウは頷いた。
「ありがとね」
調子に乗り、どさくさに紛れてピカチュウの頭を撫でた。内心放電されやしないかとびくびくしていたが、逆にピカチュウは手に擦り寄ってきた。か、可愛い…!更に調子扱いて両手で撫でくり回したけれど、全く嫌がらなかったピカチュウはいい子すぎだと思う。
「…あ、あのですね、ピカチュウ」
唐突に、おそるおそる切り出してみる。
人気のないところで唯一出会えた、心を許せるかもしれない相手。このチャンスを逃すわけにはいかなかった。ある程度の知能を持ち、拒否される可能性ももちろんあるので、ピカチュウと言えども緊張してしまうのは仕方のないことだった。
「居候させてもらえませんか!」
「ピカ?」
こてん、とピカチュウは首を傾げた。
「えーと、私住むとこなくって、」
「……」
「知り合いもいないし何にも持ってないから、」
「……」
「もし、良かったら……」
「……ピィカ」
ポンとピカチュウの手が私の手に触れた。それから、少し駆け出して振り返り、私を見上げる。
「ピカチュ」
「……付いてこい?」
「ピカ」
あわよくば、とこちらに都合のよい解釈に対して、頷いたピカチュウ。
とりあえず首の皮一枚は繋がっていると、内心両手をあげて喜びながら立ち上がり、ひらひら揺れるギザギザの尻尾に付いて行く。
付いてこいって言ってくれたってことは、期待してもいいのかな。よく分かんないけど。
雑草の道を歩いていると、あちらこちらにポケモンが見え隠れしているのに気付いた。草むらの影にコラッタ、木に張り付くビードル、地を這うキャタピー、枝に止まるポッポ。
しばらく行くと、開けたところに出た。そしてそこにはたくさんの黄色。
「わ、ピカチュウだ!」
ピカチュウだけじゃない。ピチューにライチュウもいる。ピカチュウ一家が勢揃いだ。
ピカチュウ達は一斉にこっちを向いた。
「ピーカ、ピカチュウ」
私と一緒にいたピカチュウが身振り手振りを付けながら、皆に向かってピカピカ言っている。何を言ってるのかさっぱりなので、ピカチュウ達の様子を見守ることにした。
「ピカチュウ、ピカピ」
「ピチュー?」
「ピチュー?」
「ライラーイ」
「ピッピカチュウ」
「ピチュー!」
「ピチュピチュ!」
「ラーイ」
「(…全く分からん)」
会話を少しでも理解しようと試みたが、やはり全く分からない。話に付いて行くのは諦めて、ピカチュウ達の可愛さについて考えていると、ペシペシと足を叩かれた。ぼけーっと電気鼠達を眺めている内に話はついたらしい。
「ん?なあに?」
「ピカチュ」
ピカチュウは前を向いて、一礼した。
「……ん?」
何を言いたいのかさっぱり分からなくて首をかしげる。するとピカチュウは、「ピカ、ピカチュウ」と言って、胸に手をあてて一礼した。
「自己紹介……?」
「ピッカ!」
「私が?」
「ピ!」
ピカチュウは頷いた。
ということは、おそらく、私がここに滞在することが許されたということだろうか。
こっちを見上げるピカチュウ達に向き直り、緊張しながら口を開いた。
「えぇっと……はじめまして、ナツミです」
それだけしか言うことがなくてちらりとピカチュウを見ると、ピョンと跳んで私の手を掴み、ぐいぐい皆の方へ引っ張った。二匹のピチューも駆け寄ってきて、反対の手に二匹共ぶら下がる。
「ピカチューウ」
「?」
「ピーカ」
「……ここにいてもいいの?」
「ピッカッチュウ」
「ピチュ!」
「ピチュウ!」
それぞれ頷くピカチュウとピチュー。前を向けば、ライチュウ達も笑顔で頷いてくれた。
「……ありがとう」
そしてバッと頭を下げた。
「これからよろしくお願いします!」
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