二人の降谷07
ご飯を食べ終わり、さて和やかな空気でコーヒーでも飲むか…と思っていたのも束の間。にっこり笑顔で降谷は秋良を問い詰めていた。「…で、なんで昨日赤井と一緒にいたんだ?」
「あー…」
そう言えばすっかり忘れてた、とばかりに頬を掻く秋良。昨日、赤井捕縛作戦で沖矢昴が別人と言うことにも大層驚いたが、何より一番驚いて心臓が止まりかけたのが秋良が捕まっていたと言うことだ。全く予想だにしなかった展開に降谷もだいぶ狼狽えてしまった。それに対し、秋良は困った顔をしながらぽつりぽつりと語り出した。
「僕、赤井さんの顔を知らなかったってのが一番大きいんだけど…」
うーん、と何やら考えながら口を開く秋良に、降谷は訝しげに眉を寄せる。
「まさかわざわざ家に来るとは思わなかったんだよねぇ」
「はあっ!?」
あの家に、あの赤井が来た!?と顔面真っ青にさせる降谷に気付かず、秋良はそのまま言葉を続けた。
「赤井さんがゼロくんの部下ですって家に来た所から始まって、これから大変な事になるから付いてきて欲しいって言われたんだよね」
しかもちゃんと安室透の名前ではなく、本来の降谷零の名前を出して来たから、秋良は全く疑うこともなく信じてしまったのだ。
「だから大人しく付いてったら…あの車の後部座席に押し込まれて、息を殺して隠れてって言われて大人しく隠れてたんだけど…」
FBIの車。そこに乗り込みずっと息を潜めていたのだと話す秋良。ジョディとキャメルの話を聞きながら訳の分からない急展開に目を白黒させているうちに、あの岩に乗り上げるという強行突破にあったのだ。そこで一旦言葉を切ると、ふぅ…と秋良は感慨深げに溜め息を吐いた。
「───僕、意外とあの事故の事…根に持ってたんだなぁ」
まさかあの程度で気を失うとは思わなかったよ、と力なく笑う秋良に降谷は唇を噛み締めた。
そう。秋良はこの世界に来る前にトラックに轢かれている。その時のスキール音や衝撃音が、あの時きっとトラウマとして甦ってしまったのだろう。
「普通の運転は大丈夫なんだけどね」
「…そう言う問題じゃないだろ」
秋良は気にしてないよ、と笑うが降谷はそういう訳にはいかない。無関係な秋良を巻き込んでしまっただけではなく、トラウマを引き起こしてしまったのだから。一番の原因は赤井のせいであるが、この作戦を練って計画した降谷も同罪だと心苦しく思っていた。
「大丈夫だよ、本当に」
だからそんな顔しないで。と優しく頬を包み込む秋良の手に降谷は擦り寄った。ほんのり温かい手の温度に荒くれだった心が安らぐのを感じる。
「…他人を心配する前に自分の心配をしろ、馬鹿…」
秋良はどんな事があっても人のせいにはしない。自分が、自分のせいで、と溜め込む人間だ。だからきっと今までもたくさん悲しみ傷付いてきただろう。それでもそれを押し隠して笑う。
「自分を蔑ろにしないでくれ、頼むから…」
頬を包み込む手を逆に包み込むと、秋良は少しだけ戸惑ったような表情をした後、それでもやっぱりあの眉を下げて困ったような顔で微笑むのだった…。