二人の降谷06

 降谷のデスク上にはパンやらおにぎりやら缶コーヒーやらがたくさん散乱していた。

「適当に買ってきたから好きな物食べて」

「んー」

 秋良の言葉に降谷は少し考えると、シャキシャキレタスと書かれたレタスたっぷりのサンドイッチを手に持った。

「俺これにしよう」

 ぴりり、と袋を開封しサンドイッチを取り出す。かぶりと大きく齧り付くと、レタスがシャクっと子気味良い音を立てた。

「…んー」

 至って普通のサンドイッチである。いつも秋良が作るサンドイッチとは比べ物にならないくらい、パンはもそもそとする上に味は至って普通。不味くはないが美味くもない。何の変哲もない素朴な味がした。

 だからこそ恋しくなるものなのだ。

「あー秋良の手料理が食いたい」

 秋良の作るサンドイッチは別格に美味しい。何個でも食べれてしまうくらいだ。コンビニのサンドイッチを咀嚼しながら溜め息を吐き出せば、困ったように眉を下げる秋良が目に映った。

「流石にここでは作れないかなぁ」

 作れる場所も材料とないし。と言うなり、秋良もメロンパンを頬張る。もぐもぐ口を動かす様子を横目に、降谷も二つ目のサンドイッチに手を出した。

「簡易キッチンでもあれば適当に作れるんだけどね」

 流石に給湯室にはポットとコップくらいしかないので料理は出来ない。秋良はどこか不満そうにサンドイッチを食べる降谷を見て苦笑いを浮かべた。

「でもここに簡易キッチンなんて作ったら、家に帰らなくなる人が増えちゃいそう」

「それもそうだな」

 仮眠室やシャワー室がある上にキッチンなんて出来たらそこで生活が出来てしまう。帰らない人が急増する事間違いなしだ。…社畜にも程がある。

「まあ秋良の手料理は今晩に期待するかな」

「ふふ、任せて」

 ニッと笑う秋良に笑い返すと、降谷はそう言えば…と先程の事を口にした。

「お前、何だって事務方のあの子に捕まってたの?」

「あー、相川さん?」

 ああ、そうだそう言う名前だったな。と次に食べるものを探していると、秋良は眉をひそめながら降谷にあの時話していた内容を聞かせた。

「今度飲み会があるから行きませんかーから始まって、詳細が決まったら教えるので連絡先教えて下さいって言われてー」

「えっ、連絡先教えてないよな?」

 ああいう手のやつは飲み会云々の前に色々関係ない事でも連絡してくる。ただ飲み会は連絡先を手に入れるための手段なのだ。

 お人好しなきらいがある秋良の事だ。もしかして教えてしまったか?とヒヤヒヤしながら言葉を待つと、秋良は首をふるふると横に振った。

「まさか、教える訳ないよ」

 流石に僕だってあそこまであからさまだったら連絡先が欲しいだけなんだなと気付くし。と、溜め息を吐く秋良。

「どの世界にもああいうタイプの子はいるんだねぇ」

「…前にも経験があるのか?」

 その言い方だと、前にもこの手に掛けられたことがあると言っているようなものだ。興味本位で聞いてみると、秋良はどこかげっそりとした顔で珍しく低く唸るような声を出した。

「飲み会だって言うから連絡先教えたのに、毎日女の子から猛アタックされて、その時付き合ってた彼女に本気で浮気を疑われた」

「あー…」

 成程。既に経験者だった訳だ、と秋良の肩をぽんっと慰めるかのように叩いた。

 

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