嵐の前の静けさ01

 あれから暫くは、ゼロくんの本宅…つまりは降谷零名義のマンションで軽く軟禁に近い形で過ごした。軟禁、と言っても定期的に食料などは持ってきてくれていたので生活に困る事は無かったのだが。それでもやっぱり外の空気が恋しくなるのは無理もない。悶々と家の中で過ごしながら、たまに来る沖矢さんのメールにこっそり返信したり、気まぐれにダウンロードしたアプリで遊んだりとただただ一日が終わるのを待つ日々。

 ゼロくんにはもう少しの辛抱だからと励まされながら、今日も一日ぼんやり過ごしていた時、インターホンが鳴り響いた。

「はいはーい」

 ぱたぱたとスリッパの音を響かせながらインターホンに映り込む人を確認する。あ、かざみんだ。

「今開けるねー」

 玄関に向かい鍵を開けると、そこにはゼロくんの部下である風見裕也…通称かざみんがレジ袋片手に立っていた。

「かざみん、いつもありがとう」

「あの、いえ…それは構わないんですが…その呼び方はどうにかならないでしょうか」

 レジ袋を受け取りつつきょとりと目を丸くすれば、かざみんは困ったように眉を下げながら口を開く。

「普通に呼び捨てで構いませんので…」

 最初は風見さんと読んでいたのだが、かざみんがゼロくんにも呼び捨てされてるのに、僕が敬語&さん付けしてると同じ顔なのにこうも違うから違和感しかないと言っていたのだ。なのでそれ以降敬語は無くし、かざみんと勝手に読んでいる所存である。

 しかしそれも不満と言うならなんと呼ぶべきか。少しの逡巡のあと、あっと声を出した。

「じゃあ裕也?」

 こてりと首を傾げて言えば、言葉に詰まるかざみん。うぐ、と苦虫を噛み潰したような表情が面白くて思わず吹き出してしまった。

「あは、そんな顔しないでよ」

「名前呼びは…本当に…勘弁して下さい…」

 名前で呼ばれるくらいならそのままでいいです…。じゃないと降谷さんに殺される。とぼそりと呟くかざみん。どう言う意味だろうか。

「んん?ゼロくんそんな事で怒ったりしないと思うけど」

「いえ、怒る怒らない以前の問題です」

「…ふぅん?」

 げっそりとした顔のかざみん。意味はわからなかったが、深くは突っ込まなかった。

「あ、そうだ。お昼ご飯まだなら食べてく?」

 かざみんにそう声をかけるが、申し訳なさそうに首を振られた。

「すみません。お気持ちは嬉しいんですがまだ仕事が残ってますので」

「そっかぁ…」

 残念だが仕事なら仕方ない。お仕事頑張ってねと声を掛けて見送ると、また広い部屋に一人ぽつんと佇む。

「……うん、ご飯作ろっかな」

 一人だけど食べなければ食材を無駄にするだけ。簡単なもの…そうだ、ナポリタンでも作ろうとキッチンへと向かって行った。


 

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