嵐の前の静けさ02

漸く事態が落ち着いた頃、もう大丈夫だろうと言うことで安室透名義のマンションに帰ってきたのがつい昨日の事。秋良は今日、久々のポアロの出勤でお昼から働いていた。

「はー、久々のポアロ落ち着く…」

 外の掃き掃除をしながら、燦々と輝く太陽を浴びつつ晴れ渡った青空を見上げる。ゆるやかに動く雲の様子に、内心平和だなと心が穏やかになった。

 コーヒーを入れたり常連のお客さんの何でもないようなお話を聞いたりするだけで、とても有意義な時間が過ぎてゆく気がする。のんびりまったりとした空気に、自然と笑みがこぼれ落ちた。

 ────やっぱり人との関わり合いってとても大事なんだなぁ…。

 秋良はしみじみそんな事を思いながら入口前を箒で掃きながら掃除していると、ふと遠くから見知った顔が見えてきた。

「──あっ!」

「どうもお久しぶりです」

 穏やかに微笑む眼鏡を掛けた好青年。言わずもがな沖矢である。

「早速来て頂けたんですね」

 予め、今日ポアロに出勤する事を沖矢にはメールで伝えていたのだ。暫く合っていなかったからか、何度か心配するようなメールが届いていたので、安心させる意味も込めてメールしたのだが、早速来店するとは思わなかった。まあ沖矢…つまり赤井は、あの事件のあと姿を全く見せなくなった秋良をかなり心配していたのだ。顔にこそ出さなかったが、あのカーチェイスでの事が赤井の良心に深く突き刺さっていた。こうして元気な姿を見て、漸く胸につかえていたものが取れたような気がする。人知れずホッと息を吐き出しながら、沖矢の仮面を被ったまま赤井は秋良に話し掛ける。

「暫くぶりですが…風邪でも引いていらっしゃったんですか?」

 さり気なく体調を気遣うような言葉を選んで出せば、秋良はなんて事ないふうな笑顔で首を振った。

「いえ、別に風邪とか体調が悪かった訳では無いんです」

 この通り元気いっぱいですし、と笑顔を振り撒くその顔に偽りは見えなかった。取り敢えず、あのカーチェイスで体調を崩していた訳では無かったのかとホッとする。…自覚症状は無いが、思ったより赤井は秋良の心配をしていたようだ。

「そうだったんですね。長らく姿が見えなかったので風邪でも拗らせてしまったのかと心配してました」

「すみません、心配掛けてしまったようで。早くに僕から連絡取れば良かったですね」

 メールアドレスは知っているので、沖矢と連絡を取ろうと思えばいつでも取れた。でも、あまりメールしたりしてるとあの降谷の事だ、すぐに異変に気付き沖矢に迷惑をかけてしまうと考えていた。…何せ、メルマガと言ったようなメールすら送られてこない携帯電話だ。それなのに何者かからメールが届いているとなると降谷は確実に不審に思うだろう。そうなれば大惨事間違いなしだ。

 だから秋良は自分からはなるべく連絡は取らないようにしていたし、メールが届いても返信したらすぐに削除して履歴に残らないように気を付けていた。何せ友達のいない秋良だ。メル友なんている訳ない筈なのにせっせとメール返信していたら怪しまれてしまう。ちなみに、アドレス帳には他人の目を欺くためにたくさんの人の名前があるが一切デタラメのハリボテである。その中に沖矢はもちろん、先生と降谷と最近追加された風見の番号があるが、表示される名前は全くの別人である程の徹底ぶり。携帯電話を無くさない盗られないのが一番であるが、万が一…と言う事があるので、もしものための徹底された措置である。

 こうした理由から自分から連絡を取るのを躊躇っていた秋良だったが、本気で心配していた様子の沖矢に早く対処してれば良かったなと罪悪感を抱くのであった。


 

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