嵐の前の静けさ04

 一瞬、喧騒としていた空気が固まり、辺りが静まり返った。

「ぐぅぅ…」

「っあ、男を抑えろ!!」

 一体何が起きたのか分かっていない犯人の男が痛みに呻き出したのを合図に、周りの人間が数名慌てて男を拘束するために近寄って来た。

 それからの流れは手馴れたものだった。流石は事件慣れしている米花町。手際良く男を取り押さえて拘束する人々。秋良はふう、と小さく息を吐き立ち上がると、きょろりと辺りに視線を走らせた。

「あのすみません、どなたか警察に電話をお願い出来ますか?」

「──はっはい!」

 秋良の言葉に慌てた様子で近くにいた女性が携帯電話で警察に電話をし始める。

 これで間もなく警察も来る事だろう。後のことは警察に全て任せれば良い。秋良はほっと息を吐いた。

「さて、と…」

 引ったくりをして呆気なく捕まった男は、どうやらこれ以上抵抗する気力は無いようだった。秋良はぐったりと俯き拘束されている男に近寄ると目の前にしゃがみ込みにっこりと微笑んだ。

「警察が到着するまでもう暫く大人しくしてて下さいね」

「ひゃ、ひゃい!」

 男は何を思ったのかぶるりと身震いしたあと大きく何度も頭を振った。








「───はぁしかし、ビックリしましたねぇ」

 警察に連れてかれる男を眺めながら隣にいた沖矢にそう話し掛けると、沖矢はやや間を空けたあとじっと秋良を見詰め口を開いた


「…何か身体を鍛えているんですか?」

「へ?いや、特に…何も…?」

 ジムとか通ってるわけでも筋トレを欠かさないわけでもない。特に何もしていないので素直にそう答えるが、沖矢はどこか納得していないような表情で再び言葉を続ける。

「それにしては秋良さん、先程は随分手馴れた様子で男を取り押さえていましたね」

「あー…まあ昔ですけど、合気道習ってたので。ああいうおお振りなパンチとかは、相手の力を利用して力を受け流すだけで相手を無気力化出来ますからね」

 そう、特別力を入れてるわけでもない。ただ相手の力を受け流して利用しただけなのだ。

「相手の動きをよく見ていれば誰にでも簡単に出来ますよ」

 合気道は最小限の力でできるので女性にもオススメだ。護身のために習う人もいるくらいで、前の世界だが秋良が通っていた道場でも女性の方が何人か習っていた。

「合気道は護身術としても申し分無いですからね。…成程」

 ふむ、と頷く沖矢。秋良はきょとりと瞬きを繰り返した。

「どうかしましたか?」

「いえ。自己防衛出来るだけの力があると分かって少し安心しました」

 安室透とは違い、秋良は本当にただの一般人だ。普段の言動や行動からは想像も出来ない隙のない動きに、思わず身体が固まったのは記憶に新しい。一般人と同じく守るべき存在側だと思っていたので、これは良い意味で裏切られた。男が投げ飛ばされ地面に縫い付けられた瞬間、いつもは細めている瞳を思わず目を見開いてしまった程だ。そんな様子の沖矢に、秋良は可笑しそうにくすくすと笑みを零した。

「ははっ。そんな大層なものでは無いですけどね。まあ自分の身くらいは多少何とかなる程度です」

「それでも立派ですよ。…正直、身を守る術が無いのではないかと思っていたので…」

 安室透がかなり危うい立場にあるので、多少なりとも身を守る術があるのはいい事だと一人頷く沖矢。

「──ふふ、確かにW僕Wは彼…透ほど力無いですからね」

 心配になるのも無理は無いと思います。と、からから笑う秋良に、沖矢は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。


 

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