嵐の前の静けさ05
ポアロでバイトして帰る道すがら、秋良はぼんやりと辺りの風景を眺めながら今日一日のことを振り返っていた。久々の外。ポアロでの仕事は相変わらずで、降谷目当てのお客さんも数多く良く声をかけられた。マスターも梓も誰一人として、今日は降谷ではなく秋良が働いていた事に気付かずいつものように接してくれる。
そんな中、引ったくり現場に遭遇したのは予想外の出来事過ぎて驚いたものだが、何とか怪我もなく犯人を取り押さえる事に成功し事なきを得た。バックを引ったくられた女性からは何度もお礼を言われ、秋良も人の役に立てたのだなと後から少しだけ自分が誇らしく思えた。
久しぶりに会った沖矢ともゆっくりは出来なかったがそれなりに話すことが出来たし、秋良は慌ただしくも充実した一日だったなと一人満足気に微笑む。
後は帰ってご飯支度して、降谷が帰ってくるのを待つだけだ。
「今日は何作ろうかなぁ…」
久々にハンバーグとか作ろうか。なんて一人思考を巡らせる。
中にチーズを入れてもいいし、デミグラスソースをかけても美味しい。煮込みハンバーグでも良いな、なんてつらつら考えながらスーパーに向かう道程でメニューを考える。
───付け合せのサラダは何にしようか…。キャベツの千切りより、大根の千切りにかいわれ大根と桜エビを入れたら香りも良いしいいかな?桜エビは乾煎りすれば更に香りもよくなるし、見栄えも綺麗になる。ドレッシングは和風にしよう。ごま油にしょうゆと砂糖とレモン汁。これらを混ぜ合わせればあっという間に簡単ドレッシングの出来上がり!
こんな事を考える何の変哲もない一日。
それがもうすぐ終わる事になるなんて、この時は全く知る由もなかったのだ…。
「腹減った…」
降谷は帰ってくるなり、挨拶もそこそこにキッチンに立つ秋良を背後からギュッと抱き締め何を作っているのか覗き込んで来た。
「おかえり、ゼロくん。今日はハンバーグだよー」
結局ハンバーグはチーズINハンバーグになった。中からとろりと溢れるチーズがポイントである。
「美味そうな匂いがする…」
控えめに主張するお腹の音を聞きながら、秋良はくすりと笑みを零した。
「それじゃあ先にご飯にしよっか。ほら、上着脱いで」
のそのそと上着を脱ぎ始める降谷。それを受け取りハンガーに掛けつつ、降谷には手洗いを促し洗面所へ向かわせた。その間にご飯をテーブルの上に並べてゆく。
飲み物は何が良いだろうか。お酒か水か…。手を洗って帰ってきた降谷に声を掛けると、少しも迷わず「ビール」と返ってきた。
「ふふっビールね。了解」
冷蔵庫から冷やしておいた缶ビールを取り出しグラスと共に食卓へと持ってゆく。
「別に缶のままで良いのに」
「そう?でもグラスに注いだ方が美味しく感じるって聞いたよ」
───まあ僕は飲めないからよく分からないんだけどね。
「美味しく飲んで食べてくれる方が僕も嬉しいんだけどな」
「…言い方がずるい」
「はははっ」
ほらグラス持って、と言えば大人しくグラスを受け取りビールを注がせてくれた。黄金色の液体とふんわり上がる白い泡。上手い具合に注げたようだ。
「ん、上出来!」
えへへと得意気に笑う様子を見ながら、降谷は思わずぽつりと言葉を零した。
「───秋良は本当に献身的ないい嫁になるよ」
「えっ僕男なんだけど…」
「うん、知ってる。俺の嫁にならない?」
「───えっ??」
真顔でそう言われても反応に困りますお客様…。と秋良が思ったのも無理はない。