こんにちは異世界05
「ぷはあっ」駅から変に思われない程度に早足で離れた所で、秋良は漸く詰まっていた息を勢い良く吐き出した。
「ややややばかったー!」
今頃になって手が震えてくる。先程は運良くこの顔の彼…どうやら安室さんと言うらしい…の知り合いに出会えたから運良く逃げれた。もしあの少年が見つけてくれなかったら今頃どうなっていたか分からない。
「あー本当にありがとう!コナンくんとやら。変な名前だなんて思ってごめんね」
小さな声でぶつぶつと先程の少年に感謝していると、目の前から50代くらいの女性がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。ばち、と目が合ったなと思った瞬間、目の前の奥さんが嬉しそうに破顔しながら近寄ってきた。
「あら、あらあらあら!透ちゃんじゃない!」
「あっと…こんにちは」
どうやらまたもや安室さんの知り合いに出会ってしまったようだ。安室さんがどういう人物なのかさっぱり分からないが、取り敢えず秋良はふわりと笑顔を浮べて挨拶を交わす。
「久しぶりね。元気にしてた?」
うふふ、と笑顔を浮かべる奥さん。…どうやら別人だとは思っていないようだ。内心ほっとしながら表情には出さず会話を続ける。
「いやぁ、最近ちょっと忙しくて…。やっと休みを頂けたので気分転換に歩いていたんですよ」
秋良にとっては全く知らない赤の他人だが、安室さんにとってはご近所のさんの奥様。きっと近隣の付き合いがあるだろう。下手にそそくさ逃げて心象を悪くするよりは、少しでもお話して印象を良くしておいた方が良いだろうと思い、秋良はニコニコと笑顔を浮かべた。知らない人だが挨拶程度の会話なら問題なく出来るだろう。問題は深い話に持っていかないこと。名前すら知らないので、下手に会話が長引いてしまったら怪しまれてしまう。
元よりこのW安室透Wが忙しいという話は知っている。そして滅多に帰ってこないことも。だからそれなりの理由を話しつつ秋良は自分の話から別の話へと矛先を変えた。
「最近はお天気も良いですし、いい散歩日和ですよねぇ」
にっこり。笑顔を浮かべれば頬に赤を指す奥さん。…流石はイケメン。この笑顔は誰にでも通用するのかと秋良は笑顔の裏でそう思った。
「そうね、最近はお天気が良くて洗濯物も捗るわあ」
「そうですね。あははは」
おほほほほとわざとらしく笑う奥さんに倣って一緒笑う。笑顔最強!
「…あ、そう言えばお買い物の途中だったのでは?お時間大丈夫です?」
秋良は奥さんの手に握られている買い物リストを目敏く見つけていた。この辺をまっすぐ行ったところにスーパーがあるのはさっき歩いていた時に確認済みだ。恐らくそこに行くのだろうと当たりをつけてそう言えば、流石は探偵さんねと奥さんは晴れやかに笑う。
「確かにそろそろ行かないとだわ」
寂しいけれどまたね、と歩き出した奥さんに手を振り見送る秋良。また今度、と微笑めば嬉しそうに足取り軽やかに歩き出した。
「…ふぅ、安室さんとやらは人気なんだなぁ」
少し出ただけですぐに知り合いに捕まってしまった。まだ本人でないだけマシだが、これは本当に鉢合わせした時やばいぞと秋良は震えた。
「…はあ。今日はなんだか疲れたな」
リハビリがてらに散歩しながら会社の様子を見に行こうとしたのに、何故こんなことに…。知らない駅名にも驚かされたし、この安室透…。図らずも職業と働いている場所を知ってしまった。考える事がいっぱいある。取り敢えず帰ってから家で考えを纏めようと、秋良はゆっくりと歩き出した。