ドッペルゲンガー03

 閑散とした港付近のトタンで出来た古い倉庫の中。大小様々な沢山の木箱が積まれたそこで、僕はもう一人の女性と共に頑丈な鉄筋に手錠を掛けられ身柄を拘束されていた。

 傍にはポルシェを運転していたウォッカと言う名の男と、どこかで見たことがあるような既視感を抱くとても美しいプラチナブロンドの髪をした女性、そして銀色の髪をした男の三人がいた。果たして一体これは何なのか…。一体何が起きているのか微塵も理解出来ていなかったが、僕はそれをおくびにも出さず済ました顔で冷静に状況を確認していた。

 鼻を掠める煙草の匂い、こつりこつりと鳴り響く足音。ふと足音が止んだと思ったら、突然光に照らされ眩しさのあまり一瞬目を瞑ってしまった。どうやら暗闇の中に置いてあったスポットライトが点灯したようだ。光に照らされたのと同時に長い銀髪の男…そう、確か名前はジンと言っただろうか。逆光の中、ジンは底冷えした笑みと共にゆるりと口を開き話し始めた。

「キュラソーが伝えてきたノックリストにお前達の名前があったそうだ」

「───キュラソー…ラムの腹心ね。そう、確か情報収集のスペシャリスト」

 一緒に拘束されている女性……ここではキールと呼ばれていたが、恐らくアナウンサーの水無怜奈ではないだろうか。彼女の顔は人気アナウンサーとして有名なのでよくテレビで見掛ける。

 その彼女がジンの言葉に反応してみせたという事は、少なくともこの状況を僕よりは理解出来ているようだった。恐らくだが、この人達は何らかの組織の一員で、今回なんらかの不始末が起きてしまったのだろう。それが原因で僕がゼロくんと勘違いされて身柄を拘束されているのではないだろうか。

 あくまで冷静に状況を把握していると、ジンではなく今度は遠くで壁に寄りかかっていたプラチナブロンドの…ベルモットと呼ばれていた女性が静かに口を開き始めた。

「知っているようね」

「外見の特徴は左右の目で色の違うオッドアイ。…組織じゃ有名な話しよ」

「…そうですね」

 プラチナブロンドの女性の言葉に再び言葉を返すキール。僕はキュラソーなんて人は知らないが、どうやらキュラソーはこの組織では有名人らしい。本当はさっぱり知らないがここは相槌を打つべきと判断し、まるで知っているかのように頷いてみせた。

「昔のよしみだ。素直に吐けば苦しまずに逝かせてやるよ」

 すると今度はサングラスの男ウォッカがゆっくりこちらに近付きながら何やら不穏な言葉を口にするではないか。

 素直に吐けば…とは一体何のことなのか。理由は分からないがなにやら危ない空気が流れている事だけは分かった。状況からして、僕とキールが何かで疑われていてそれで捕まっているのだろう。…しかし、これで一つだけ分かったことがある。

「……僕達を殺さず連れてきたのは、そのキュラソーの情報が完璧では無かったから。違いますか?」

 僕をここまで連れてくる段階で銃をぶっ放す男が、こんな寂れた場所に連れてきて直ぐに殺さないわけが無い。つまり情報が不確かだったから殺せなかった、と推理した。

 遠くで木箱に腰を掛け、悠々とタバコを吹かしてしたジンにそう問い掛ければ、彼は鼻を鳴らし嘲笑を浮かべながら薄く口を開いた。

「───流石だな、バーボン」

 バーボン。先程から僕の事をバーボンと呼んでくるという事は、ゼロくんの別の呼び名がそれなのだろう。バーボン、キュラソー、ベルモット、キール、ジン、ウォッカ。…全部お酒の名前。お酒の名前がコードネームなのだろうか。

 じっとジンの動きを観察していたら、傍の木箱に寄りかかっていたベルモットが呆れたように肩を竦めながら話し始めた。

「ノックリストを盗んだまでは良かったけど、警察に見つかり逃げる途中で事故を起こした」

「挙句、記憶喪失ときたもんだ」

 ベルモットの言葉に続けて言ったウォッカの言葉によれば、キュラソーが警察に忍び込んでノックリストとやらを盗んだまでは良かったのだが、途中で事故にあい記憶喪失になってしまってそれが本当に正しい情報が分からなくなってしまったと言う事なのだろう。ノックリスト……この話の流れからすると、恐らくスパイのリスト、か。実際、ゼロくんは警察の人間なのでいつバレてもおかしくはない。キュラソーの記憶喪失によりまだ核心には辿り着いていないが、キール諸共疑われてこんな辺鄙な場所で拘束されている所をみるとあんまり楽観視は出来なさそうだ。

 どうするべきか。静かに考え込む僕の隣で、キールは身の潔白を証明するために慌てて声を上げた。

「じゃあ!キュラソーを奪還してノックリストを手に入れるべきじゃないの!?ジン!我々が本当にノックか、それを確認してからでも遅くはないはずよ!」

「…確かにな。───だが」

 キールの主張に、ジンは同意して見せた。…しかし。

「ジン…!」

「アニキ…!?」

 ジンの手にはスポットライトを浴びて黒光りする一丁の拳銃が握られていた。

 一気に緊迫した空気が流れる。動揺したのは僕やキールだけではなく、傍にいたベルモットやウォッカもだった。

「疑わしきは罰する。それが俺のやり方だ。───さァ、裏切り者の…裁きの時間だ」

 ジンは吸っていた煙草を地面に落とすと、まだ煙が燻っている煙草を靴裏で乱雑に踏み消し嘲笑を浮かべた。


 

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