こんにちは異世界12

 部屋の中は無駄なものが一切なく、綺麗に片付けられていた。調度品一つ一つがとても高価な物である事から、この家は外観だけではなく実際に結構な資産家だと降谷は推測する。つまり、見栄を張って大きくしただけの家ではないようだ。

 親が資産家なのか、目の前の女性がやり手の事業主なのか、はたまた裏に資金を援助してくれる何者かが付いているのか…。

 確信を得られないまま、案内されたリビングにある座り心地の良さそうなソファーに腰を降ろした。向かい側には広末が座っている。秋良は飲み物でも用意しているのか、早々にキッチンの方へと姿を消していた。

「………」

 ロココ調のローテーブルを挟んで向かい側に座る広末をこっそり盗み見ながら安室は考える。敵か、味方か。下手に行動する事は出来ない。

 先に口を開いたのは広末の方だった。

「───それじゃあ、お話する前に…秋良!」

「はーい?」

「お客様にお茶とお茶請けを…───大和屋から買って来て」

「ええっ!?これから行くんですか!?今、普通にコーヒー入れてたんですけど」

 キッチンからひょっこり顔を出した秋良。今まさに入れていたのだろうコーヒーの良い香りが漂ってきた。

「しかも大和屋って遠くないですか?!」

「和菓子の気分なのよ。いいから早く行ってきなさい」

「ううう、横暴だ!」

 ここから大和屋まで早足で行っても片道20分はかかるだろう。それが意味することは一つ。時間稼ぎだ、と降谷は思った。

「早く行きなさい」

「はいはい!行ってきます!」

 頬をぷくっと膨らませたまま上着を羽織り、秋良は慌てた様子で家を飛び出して行った。

 暫く二人の間に沈黙が流れる。先にその沈黙を破ったのは降谷だった。

「…で、あからさまな時間稼ぎをしたのは、彼に話を聞かれたく無かったからですか?」

 何か都合の悪い事でもあるんですか?と厳しい眼差しのまま問い掛ければ、広末は髪を耳に掛けながらニッコリと微笑んだ。

「そうね」

「それは、彼の免許証に関係がありますか?」

「…思ったより察しが良いのね」

 やっぱり、と降谷は思った。あの変な免許証。それが鍵を握っているようだ。

「貴方も見たのでしょう?…見知らぬ住所が記載された免許証」

「ええ、まあ」

 見た事のない地名。日本全国の地名を把握している訳では無いが、東京にあんな区域は存在しない。それでも当たり前のように記載されたそれに、違和感を覚えたのは目の前の女性も同じだったようだ。

「…あれね、実在しないのよ」

「…そうでしょうね」

 やはり、実在しない住所のようだ。

「ちなみに、免許証が偽物っていう可能性は無いんですか?」

 次の可能性として、降谷は偽物説を問い掛けてみた。すると、少しだけ悲しそうに微笑み、広末はゆるゆると頭を横に振った。

「あんな忠実に再現出来るとしたら、普通は実在する住所を使う筈でしょう?」

 それもそうだ。確かに偽物だとしても実在しない区域を使う理由が分からない。そんな事をしても全く意味がない。…ともすれば。

「やはりあれは本物だと?」

「ええ、私はそう思うわ」

 本物。だとしたら、一体どういう事なのか。その疑問に答えたのは広末だった。

「彼、この世界の人間じゃないのよ」

「…はっ、急に何を仰るんです?」

 現実的じゃないそれに、降谷は嘲笑った。

「だったらなんです?急に降って湧いて出たと言うんですか?」

 馬鹿な、と言いたげなその表情に、末広は真剣な表情のまま頷いた。

「そう。ある日突然、うちの庭に現れたのよ」

 ───血塗れで、息も絶え絶えで死に掛けた状態で。

「有り得ないけど、それが真実よ」


 

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