ぼくときみ01

「ねえゼロくん、本当にこの部屋好きに使って良いの?」

 僕は今、ゼロくんこと降谷零くんのお部屋にお邪魔していた。

「ああ、好きに使ってくれ」

 今しがたベッドを運び終えた所で、運び入れたベッドが入ってもそれでも有り余る部屋の間取りに、僕は阿呆面満開で口を開いた。

「はあ、こんな広い部屋初めてで…何だか落ち着かないなあ」

「そのうち慣れるさ。それにここに机とかクローゼットも運ぶから思ったより狭くなるぞ」

 重たい物を運んで汗が出てきたのか、ゼロくんは甘いフェイスには似合わず意外と豪快にシャツの裾でグイッと汗を拭きあげた。

「うーん、そうなのかなぁ?…まあ取り敢えず他の家具も運ばなきゃだね」

「ああ」




 何故こうなっているかと言うと、遡ること数日前。自分がこの世界の住人では無いと気付いたその日、ゼロくんからとある提案をされたのだ。

 自分の名前は本当は別にあって、訳あって安室透の名前を使っていると。そこで、同じ顔の僕にその名前を貸してくれると言ったのだ。

 ただ、それには条件があった。

 何でも他にも仕事があり、かなり忙しいと言う彼に代わって、安室透としてポアロでバイトをして欲しいと。

 特に難しそうな条件でも無い。ただ、バイトするだけの簡単なお仕事だ。だからこそなんで…という顔をしていたのだろう。

 そこで教えてくれたのが、何でも安室透の存在を疑っている人達がいるらしく、その人の目を欺くためだとか。

 そんな話を聞かされて、変な顔になったのは僕のせいでは無いはずだ。

 実は悪い人なのかと一瞬疑ってしまったのだが、そうではなく、何でも潜入捜査の一環らしい。…そう、驚くべき事にゼロくんは警察の人間だったのだ。それも警察庁警備局警備企画課、通称公安警察に所属するエリート。捜査の一環で別名を名乗っているが本名は降谷零。そこまで教えて貰って信じない訳は無かった。

 ただ、やはり本来は人に明かしてはいけない職種らしく、この事は絶対に他言無用と怖い顔で言われたのは記憶に新しい。

 そんなこんなで秘密を共有することになり、それならいっそ住むところも一緒にしようということでゼロくんのお家に引越ししている最中なのです。

 ちなみに、ゼロくんと呼んでいるのは本名で呼ぶのは絶対禁止と言われたので、零の名前から思い付く適当なあだ名を言ったところ、それが採用されたのであります。…ゼロ、と言った時、少しだけ驚いた表情をしていたような気もしたが、あれは気のせいだったのだろうか。

 ともあれ、僕は彼をゼロくんと呼び、ゼロくんは僕を秋良と呼ぶようになったのです。…あれ、僕の方が年上なのに呼び捨て…いやいや、気にしませんけども。

 外に出たら僕は安室透にならなきゃならなくて大変ではあるが、安室透の免許証や保険証もあるので、一応戸籍上の問題は解決したようだ。…まあ、安室透も存在しない人物ではあるのだが、流石はゼロくん。しっかり安室透を戸籍にも登録しちゃうあたり、何だか危ない仕事をしてるのではと不安になってしまうが、彼の仕事には首を突っ込まない約束なので何も聞かない。そうして出来上がった二人の関係はちぐはぐなものだったが、案外僕はこの関係を気に入っていた。

「秋良、こっち運ぶの手伝ってくれ」

「はーい!」

 ───これから、色んなことに巻き込まれるとも知らずに、この時は平和そうに笑っていたのであった…。


 

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