ぼくときみ05
お風呂から上がり、ゼロくんの髪を乾かしながら明日の事に話し合っていた。「───明日、試しにポアロでバイトしてみるか?」
ゼロくんのサラサラな髪に指を通しながら、その言葉の意味を咀嚼する。
「…って、事は明日僕は安室透としてポアロに行くってこと?」
「そう」
眠たそうにウトウトしながら頷くゼロくん。今日も一日仕事三昧で疲れ切っているのだ。眠たくなるのも無理はない。
しかしバイト、か。安室さんとして笑顔を振り撒いて、料理やコーヒーを入れて……あれ、なんかいつもやってる事と同じなのでは?
「…分かった。頑張ってみる」
あとは変な行動しないように気を付けるだけ。頑張れ僕。やれば出来るさ!
「まあ、普通にバイト、するだけ…だから」
写真で顔は覚えたろ?と言われて、昨日までに見せられたたくさんの主要人物の顔を思い浮かべる。
「えーと、ポアロの2階に事務所のある毛利先生とその娘さんの蘭さん。そこに居候しているコナンくん」
この人達に関してはネットで調べたのと、実際あったのとで顔はしっかりと覚えてるので問題ない。
「あとは蘭さんのお友達の園子さんに、コナンくんのお友達の歩美ちゃん光彦くん元太くん哀ちゃんに阿笠博士」
指折り数えながら、名前と顔を脳裏に思い浮かべる。
「ポアロで働いてる梓さんとマスターと…」
常連さんの名前をポツリポツリと言っていると、ゼロくんがしっかり覚えたみたいだな、と褒めてくれた。
「うん。僕、人の顔と名前覚えるのは得意なんだ」
だからよく会社の接待とかで連れ回された。
「そっか。…ま、あとは普段通り敬語使って、物腰柔らかく微笑んでいれば安室透の出来上がりだよ」
人当たりの良い探偵件アルバイター。それが安室透。
「ふふっ、ゼロくんモテるからバイト中色んな女性に声掛けられそうだなあ」
あはは、と笑いながら言えば、適当に笑顔で躱せよと真面目な返答があった。
「あんまり期待させるな。程々にしないとストーカーされたら堪らない」
…なんだろう。ストーカーされた経験がおありなのだろうか。いやに説得力のあるそれに、僕は一も二もなく頷いた。
「あとは…赤井秀一。この名前を忘れるな」
「赤井秀一…」
「その名前を耳にしたら逐一報告しろ」
やけに冷たくその名前を吐き出すゼロくん。まるで親の仇とでも言いそうなくらい冷たい声で…。
「───あとは沖矢昴。コイツにも近付くな」
「え、沖矢昴さん?…えーと、工藤新一くんのお家に住んでるっていう…?」
写真での印象は物腰柔らかな青年ではあったが…。
「奴は調査中だ。───何だか、俺の勘に引っかかる」
ゼロくんがそう言うなら何かあるのかもしれない。あまり接触しないように気を付けよう。
「分かった。沖矢さんには近付かないようにする」
「ああ、そうしてくれ」
今頼れるのはゼロくんしかいない。ゼロくんがそう言うなら僕はYESと答えるだけだ。僕を信じてくれたゼロくんを、僕は絶対に信じている。信じ切ると決めた。
「明日、頑張ってみるよ」
「…ああ」