ついてない1日 02

 漸く会社に辿り着き自分の部署に足を運んですぐに部長に捕まり、今朝の痴漢の事を大声でぶり返され、結局周りの人達に今朝の事件を知られてしまったせいで1日笑い者にされた。これは恐らく暫くは笑いの種にされるだろう。

 僕のせいじゃないのに…。と自分の不運を呪いながら今日1日の仕事を終えた。



 只今の時刻午後6時。今日の夕飯何にするかな、なんて考えながらいつもは通らない駅までの道を気分転換にぼんやり歩いていると、目の前から見知った女性が普段見ないようなお洒落な洋服に身を包み歩いてくるのを見掛けた。

「───あ、優子…」

 手を挙げて名前を呼んだその時、向こうが此方に気付き驚いたような表情を浮かべているのに気が付いた。…そして、その隣にいる若い男性の姿も。

「秋良…どうして」

 小さく震える優子。瞳が動揺で落ち着きなく揺れていた。すっと目線を下げると、しっかりと握られた恋人繋ぎに僕も呆然とする。

「───何、優ちゃんの知り合い?」

 訝しげな若い男性の視線。僕よりもずっと若いだろうその男は、今どき風に髪を染め、着崩した洋服から覗くシルバーアクセサリーや高級腕時計などをセンス良く着こなしていた。

「あ、いや…その」

 蒼白になってゆく優子の表情に僕は悟る。

 ───浮気してたんだ…。

 兄弟にしては近すぎる距離。そもそも優子に男の兄弟はいないのでそう頭の中で結論付ける。それなりの年数を恋人として共に過ごしてきたので大抵の事は知っているつもりだ。

「なんで…」

 見知らぬ男性と手を繋いでいるという言い逃れのできない事実に、優子はパッと表情を変えると隣の若い男性に怯えるように抱き着いた。

「こ、この人ストーカーなの!いつも私を付け回してるのよ!」

「えっ?!」

 何を血迷ったのか、恋人に向かってストーカー呼ばわり。8年も付き合っているのにストーカーとは何なのか。言い訳どころか酷い嘘をついてきた優子に、僕は驚き戸惑いの表情を浮かべた。

 僕と優子の中で変な空気が流れるのをものともせずぶっ壊して来たのは勿論、目の前の若い男性。

「はあ!?何だとこのクソ男が!ぶっ飛ばしてやる!!」

「うぐっ!?」

「キャッ!?」

 突然のグーパン。情け容赦無いその一撃に、一瞬反応が遅れてしまった。慌てて力を受け流し顔面への被害を最小限に抑える事は出来たが、その反動で尻餅をついてしまった。

「フン、金輪際オレの女に近寄んじゃねえぞ!」

 尻餅をつかせた事に気分を良くした男は、鼻高々に僕を見下ろしながら隣にいた優子の肩を抱き寄せそう言い放った。

「カズくん…」

 その光景を見た僕の表情はどんなものだったのだろうか。

 大好きだったはずの彼女が二股を掛けていたなんて。あまつさえそれをバレないようにする為に人をストーカー呼ばわり。世界が急激に冷めていくのを感じた。

「…そうですか」

 パンパンとスーツの汚れを叩きながら立ち上がる。なんか、全てどうでも良くなった。

「どうも、ご迷惑おかけしました」

「へっ、サッサと尻尾巻いて立ち去れよ」

「か、カズくん!もういいから!」

「………」

 何も楽しくない三文芝居。怒りや悲しみなどの感情がごっそりと抜け落ちた顔で前をまっすぐ見据える。くだらない茶番劇だ。

 彼女だったその女の隣をすれ違っ瞬間、小さな謝罪が聞こえたような気がしたが、聞こえないふりをして通り過ぎていった。

 

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