メーデーメーデー!05

 あれから何日かアルバイトに行ったが、これと言った問題もなくやり過ごす事が出来ていた。

 初日からハラハラドキドキな展開が待っていたが、それ以降は比較的穏やかなものだったのだ。沖矢さんは定期的に通っていたが、特に不審な点は見られず物腰の柔らかさは尊敬すら感じさせた。

 僕は少々気を張りすぎていたのかもしれない。意外と平穏な毎日を過ごせていてホッとしていたある日。それは唐突に起きた…。





 ───やっぱり、誰かに付けられてる気がする。

 ぴたり、と歩くのを止めれば数歩遅れで背後の足音も止まる。再び歩き出せば、それに合わせて背後の音も歩き出す。歩調を変えても付いてくるその足音に、僕はゾッとするのを感じた。

 ───どうしよう。ストーカーかな。

 ここ最近、ポアロで働いていると物凄い数の女性から連絡先を迫られたりしてはいた。でもその都度しっかりと断っていたのだが…。

 ───足音が軽いし、きっと女性だとは思うけど…。

 このまま自宅に帰るわけにはいかない。そんな事したら家が特定されて余計にストーカーに火がついてしまう。

 ───どうするかな。走って撒くか…。

 次の角を曲がったら走ろう。そう思って角を曲がった瞬間…。

「ぅわっ!」

「───おっと」

 誰かにぶつかってしまった。僕の顔面が目の前の男性の肩に当たったようだ。痛む鼻を押さえながら目の前の人物に慌てて謝罪する。

「す、すみません。急いでたもので…」

 パッと顔を上げれば、そこには最近良く見掛けるあの人の姿が。

「お、沖矢さん…」

 明るい茶髪に細目の背の高い青年。何だか縁があるのか良く会うものだ。

「…これは、安室さん。鼻をぶつけてしまったのでしょう?大丈夫ですか?」

 そっと僕の顔を包み込む手のひらが大きい事に気付く。…いや、まて。何故僕の顔を触ってるんだこの人は。

 近すぎる距離に慌てて離れると、にへらと気の抜けた笑みを浮かべた。

「だ、大丈夫ですよ。それよりもぶつかってしまってすみませんでした」

「………いえ。慌てた様子でしたが、お時間大丈夫なんですか?」

 何か謎の間があったが、それよりもそうだ、ストーカー!

 バッと振り返り辺りを見渡すが、怪しい人影などは見当たらなかった。

 僕はホッと息をつき、それからぶつかってしまった沖矢さんの方へ振り返る。

「いや、はい。大丈夫です」

「…もしかして、誰かに付けられてたんですか?」

「っ!…え、なん…の事」

 まさか沖矢さんにバレるとは思わなくて、言葉が吃ってしまった。視線は泳ぎ、顔色もきっと悪いだろう。それでも僕は誤魔化す。

「…さっき、背後を確認したのは誰かに付けられてたからですよね?本当はこの角を曲がったら走って撒こうとしてたのでは無いですか?」

 ───その通り!なんて言わない。

 どうして僕の周りはこうも目敏くて賢い人ばかりなのだろう。下手に隠し事すら出来ないではないか。

「…なんの、事でしょうか。ただ僕は急いでただけですよ」

 真実の代わりに嘘をひとつ吐いた。


 

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