メーデーメーデー!06

 冷や汗が滲む。兎に角早くこの場から離れなければという考えだけが頭を占めた。

「あの、それじゃあ僕…帰りますね。ぶつかってしまって本当にすみませんでした」

 ぺこりと頭を下げ、早々にここから立ち去ろうとする。…それを止めたのは沖矢さんだった。

「っ!?」

 ぐっと掴まれた右腕。えっと思ったのも束の間、凄い力で引き寄せられ硬い胸板に顔面から突っ込んだ。痛い。見た目ただの爽やかな青年かと思いきや意外と鍛えているようだ。

「そんなに真っ青な顔で…どこに行こうと言うんですか?」

「…家に、帰ろうと思ったんですけど」

 俯きながらぐっと硬い胸板を押し返し、震えを押し隠しながらそう答える。

「嘘ですね。暫くどこかで時間を潰そうと思ったのでは無いですか?」

 言い当てられてドキリとした。確かにこのまま真っ直ぐ家に帰るのは危ない気がしたので、どこかに立ち寄って時間を潰そうと考えていたのだ。

「やっぱり」

 僕の顔を見て確信したのだろう沖矢さんは、少しだけ何かを考える素振りをしてから僕の腕を引いて歩き始めた。

「えっ、ちょ、どこに…っ」

「まあ、取り敢えずお茶でもしましょう」

 近くに良いカフェがあるんですよ。なんて言う沖矢さん。この人…マイペースというか意外と強引だな。

「時間潰しに持ってこいじゃないですか?」

「…まあ、そうですね」

 仕方ない。あまり一緒には居たくないがお言葉に甘えることにしよう。…本当は少し心細かったので、沖矢さんがいてくれて少しだけホッとしたのは内緒である。





「ホットコーヒーのブラック1つ」

「あ、と…僕も同じもので」

 穏やかな音楽の流れるカフェ。店内にはあまりお客さんが居らず物静かだったが、何だか暖かい雰囲気のお店だった。店員にコーヒーを注文し、無意識のうちに張り詰めていた息を吐き出したところで沖矢さんに目を向けた。

「…ありがとうございました」

「いえ。ところで、さっきのは…今日が初めてなんですか?」

 もしかしなくともストーカーのことだろう。コクリと頷くと、沖矢さんは飄々とした表情のまま言葉を続ける。

「身に覚えは?」

「…身に覚え」

 考えて浮かぶのは最近W安室さんWに言い寄ってくる女性達の顔。連絡先の交換を迫ってくる人や、交際の申し込みをしてくる人もいた。身に覚えがあり過ぎて分からない。

「その様子だと誰かは分からないんですね」

 いつの間にか届いていたコーヒーを飲みながら、沖矢さんは何かを考えているようだった。元々あまり表情が変わらない人なので何を考えているかまでは分からないが。

「最近の貴方は、僕から見ても色んな人からアピールされていましたものね」

 ふむ、と顎に手を当てて考える沖矢さんに僕は申し訳ない思いでいっぱいになる。

「あの、大丈夫です。きっとそのうち収まりますから」

 へらりと力なく笑ってそう言えば、何故か沖矢さんの視線が鋭くなったように感じた。


 

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