メーデーメーデー!17
「…──ん」夢と現実の狭間。ふわふわと漂う意識の中で、降谷は無意識のうちに目の前の温もりに手を伸ばした。
───温かい、な…。
手繰り寄せたソレに身体を擦り寄せると、温かさを備えたソレがくぐもった声を上げた。
「うぅ…ん…」
───あれ、誰か女連れ込んでたっけ?
すすすっと太腿を撫で上げ、柔らかい首筋に唇を這わせる。リップ音を鳴らしながら所々吸い付いていたら、やけに鼻に抜ける声が聞こえてきてぼんやりとした頭のまま、その気になってそのままことを進める。
「──ふ、わっ…あ」
臀部を撫でていた手をさらにするすると上に上げてゆく。細いお腹周りに辿り着いた時に、何だか柔らかさが欠けていることに気付いた。
「ちょ、っん──」
「…ん?」
聞き覚えのある声。漸く違和感に気付いた降谷はまだ重たい瞼をゆっくり開けると、そこには眠気が吹き飛ぶくらいの驚きの光景が広がっていた。
「へっ…秋良!?」
絡めてた足を解き腕もパッと離すと、ベッドから転がり落ち足をもつれさせながらも慌てて壁に張り付く秋良。
「う、うーーー!」
散々撫で回していたからか、衣服が乱れているのもお構い無しに、顔を茹で蛸の如く真っ赤にして口元を抑えている。
澄んだ青色の瞳からは涙が零れそうなくらい潤んでいるし、息も上がっているのか肩が震えていた。
───ムラっとする。
って違う違う!ふと脳裏に浮かんだ言葉を慌ててかき消して、降谷は両手を上げながら秋良に謝罪の言葉を投げ掛けた。
「わ、悪い。寝惚けてた」
「うー…」
「…本当、すみません…」
ぼふり、とベッドの上で土下座を繰り出す。額を擦り付けていると、少し落ち着きを取り戻したのだろう秋良から弱々しい声が聞こえてきた。
「も、いいよ…」
頭を少し上げてちらりと秋良の様子を窺えば、そっぽ向いたまま唇を尖らせている。
「どうせ、女の人と間違えたんでしょ?」
───その通り!
とは言えず、苦い表情を浮かべる降谷。その様子で降谷の考えが分かったのだろう、やや呆れたように溜息を吐きながら秋良は壁伝いにゆっくりと立ち上がった。
「全くもう…」
ゆっくりドアの方に歩き出す秋良。何と声を掛けていいのか分からずただその姿を見ていると、部屋から出る前に唇を尖らせたまま秋良は口を開いた。
「…早く支度しないと遅刻するよ」
それだけ言うとするりとドアから出ていく秋良。何だかんだで面倒見の良い彼の事だ。こんな事があっても朝食の準備やらなんやらしてくれるのだろう。
「…………」
しかし、降谷はその時全く別の事を考えていた。
「……ま、いっか」
秋良の後ろ姿。彼の首筋に浮かぶ赤い痕を見付けたが、余計な事を言ってまた事を荒らげることもないか…と、降谷はそれを見なかった事に決めたのだった。
それがのちに大変な事に繋がるとは、この時思いもしなかったのである。