メーデーメーデー!18
「いらっしゃいませー」今朝、あんな事があっても今日もまた変わらず一日が始まる。
ポアロでいつも通りバイトをする秋良であったが、何だか今日はいつもより周りがざわついていた。
「……?」
今日のシフトは午後からで、梓は午前中までで午後からはお休みだった。平日のこの時間はあまり混まないのでマスターと秋良の二人きり。それなのに、何故か女性客が秋良をチラチラ覗き見ながらひそひそ話に花を咲かせていた。その理由を知る由もない秋良は、ただただ小首を傾げるばかり。
「ねー、やっぱりアレって…」
「だよね!ふふふふ」
「???」
ひそひそひそひそ。外見が良いだけにこちらを見て何やら盛り上がる人がいるのも知っていたが、今日のそれはいつも以上。秋良はじろじろ観察される居心地の悪さを感じながらも、笑顔の裏にそれを隠していつも通り仕事をするしかなかった。
───カラン、カラン。
その時、来店を知らせるベルが鳴り響いた。
「いらっしゃいませー」
くるりと振り返りお客さんを笑顔で向かい入れると、そこには蘭と園子の姿が。どうやら学校帰りにお茶しに来たようだ。漸く見知った顔にホッと胸を撫で下ろす。
「いらっしゃい、蘭さん園子さん」
「あっこんにちはー」
「こんにちは。安室さんってば今日もモッテモテねー」
あはは、と苦笑を洩らしながらお好きな席にどうぞと声を掛ける。二人は珍しくカウンター席を選ぶと、紅茶とパンケーキの注文をしてきた。
「何だか無性にあまーい物食べたい気分だったのよねー」
そう笑う園子に分かりましたと微笑むとにこりと微笑んでその場から立ち去る。
マスターにオーダーを伝え、自分もパンケーキの準備をしていたところで再びドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー。お好きな席にどうぞー…──っ!」
ひょこっと顔だけ覗けば、そこには昨日写真で見たあの子の姿があった。俯きながらもしっかりとした足取りで蘭と園子の座ってるカウンター席の3つ分離れた椅子に座る。そしていつものように鞄から分厚い本を取り出し読み始めた。
───あの子、か。
少し戸惑ってしまったが、それも一瞬。出来上がったパンケーキとマスターが入れてくれた紅茶を手に蘭と園子の元へ向かう。
「お待たせしました。どうぞ」
二人の前にそれぞれ紅茶とパンケーキを差し出してから、先程来たストーカー…もとい、佐藤夏子の元へ向かう。
「──ご注文はお決まりですか?」
少し緊張はしていたが、それを表情に出すことはなく秋良は彼女に声を掛けた。
「…レモンティーを」
ぼそぼそと小さな声ではあったが聞き取れない訳ではない。かしこまりました、と了承しその場から離れた瞬間だった。
「──あっ!?」
「?」
不意にあがった蘭の声。きょとりと振り返れば蘭と秋良の目がバッチリかち合った。その隣にはどうしたのよ、と訝しげな様子の園子の姿もある。
「…えっと、どうかしました?」
立ち止まって蘭の様子を窺う秋良。何度かの瞬きの後、蘭は「あの…」と、少し言いづらそうに口篭りながら言葉を紡ぎ出した。