メーデーメーデー!19
「あの…安室さん、首に…」「首?」
もごもごと伝えられたその言葉に秋良は首を傾げる。
───首に何かあっただろうか。
首元を抑えてきょとりとすると、蘭は慌てたようにそっちじゃなくて…と手を振る。
「あの、項の方…」
「項─…?」
園子も頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、秋良の項を覗き見た…その時だった。
「あーーー!キスマーク!」
「えっ!?!?」
「ちょっと園子!!」
思ったよりも大きな声が店内に響き渡った。その声に周りのお客さんも少しざわつく。
「っ?!」
パッと項を隠すが既に遅し。ニヤニヤにやけた顔の園子と、申し訳なさそうに顔を真っ赤に染める蘭。秋良は漸く、今日の視線の数々はこれのせいだったのかと理解した。…そして、これから目の前の女子高生達に根掘り葉掘り聞かれる事になる事も。
「えーっ、ちょっと安室さん!やっぱ彼女いるんじゃーん!」
「こ、こら園子!」
何とか宥めようとしてくれる蘭であったが、その瞳は園子と一緒で興味津々といった様子である。
「ち、違う違う!これは…」
慌てて否定するが、何と説明していいものか。考えるまでもなく、これは今朝降谷に付けられたものだと秋良は瞬時に理解していた。だが、まさかW自分Wに付けられたとも言える訳なく、困ったように口篭る事しか出来ない。どうしよう、適当に話を作り上げるか…と口を開こうとした時だった。
───ガターーーン!
大きな派手な音を立てて椅子が倒れたのが視界に映った。
「…っ──」
そして、顔を真っ青にした佐藤夏子の姿も。
「どうして…」
ぶるぶる身体を震わせる佐藤夏子。目は見開き秋良を血走ったような目で睨み付けていた。
「あ、の…」
思わず、恐怖で足が竦んだ。喉が引き攣り、上手く言葉が出てこない。
「どうして、そんなもの…」
そんな秋良を見ているようで見ていない佐藤夏子。虚空を睨みつけるその異様な姿に、近くにいた蘭と園子も顔を青ざめさせて固まっていた。いつの間にか店内も水を打ったように静まり返っている。
「どうして?誰が、そんな…。貴方は私の…」
親指の爪を噛みながらブツブツ呟く姿にゾッとした。何を考えているのかは分からないが、危ない気配がするのは確かだ。
「…っ」
さり気なく蘭と園子を背後に隠し、秋良は目の前の佐藤夏子を見据える。
今、降谷に連絡を取ることは不可能だ。ならばどうするべきか。兎に角目の前の彼女を落ち着かせなければ、と口を開こうとしたその時、虚空を見詰めていた両眼がギョロリと秋良を捉えた。