夢だと言ってくれ06
あの後散々女子高生達に揶揄われた秋良は、精神的ダメージを負いながらもバイトに勤しんだ。秋良と一緒に沖矢も揶揄われていたのにも関わらず、彼は相変わらず何を考えているのか分からない表情で飄々と受け流すだけ。全く気にした様子も無く、何処吹く風で長い足を組みながらコーヒーを飲んでいる。
やがて女子高生達は帰り、店内はいつもの穏やかな空気に包まれた。沖矢は工藤邸から持ち出した分厚いハードカバーの本を読みながら優雅なひとときを過ごしていたが、そろそろ帰るべきかと思案する。
───もうストーカーされてないと言っていたから大丈夫だろう。
不安案件も解消されたし、何も問題無い筈だ。そう思い席を立つと、丁度帰り支度していたのだろう秋良と鉢合わせてしまった。
「…おや、もしかして今日はこれで終わりなんですか?」
「ええ。この時間はあまり人が入らないので、マスター一人で充分だと言われたんです」
「そうなんですか」
別にわざと彼の帰りに合わせてそうした訳ではないが、図らずもタイミングが合ってしまったので途中まで一緒に帰らないかと誘ってみる。
「では、一緒に途中まで帰りませんか?」
「え、っと…」
彼の交通手段が徒歩と電車ということは把握済みだ。同じ顔でももう片方の彼は車を使っている事も知っている。
しかし秋良は、やはり女性達の好奇な瞳を警戒しているようだった。これ以上面倒事を避けたいのだろう。一度周りをきょろりと見渡してから、誰も此方を見ていないことを確認し、やがて覚悟を決めたのか沖矢に向かってコクリと頷いた。
ゆったりとした速度で歩く二人。基本的に話すのは秋良からだが、それに応えながら談笑を交え帰り道を歩く。
話す内容は本当に何でもない事だ。
家の近くにいる野良猫が可愛かっただの、この間買い物に言ったら近所のおばさんに捕まって一時間も立ち話に付き合わされた事とか。笑いを交えながらそう話題を提供してくる秋良は、やはり根っからの善人なのだろうなと沖矢は思った。
自分のように後暗い事もきっと無いのだろう。彼はどう考えても一般人。もう一人の彼がどうなのかは分からないが、沖矢は今目の前にいる秋良を最初の頃ほど疑っていなかった。
───いつの間にか絆されてしまったのは此方の方だったか。
表情がころころ変わる秋良の横顔を盗み見つつ、時折相槌を挟む。
今までの怒涛の日々が嘘のように、穏やかで暖かい雰囲気に沖矢は無意識のうちに笑みを浮かべていた。