名探偵の受難02
「キス、は?」その言葉に引っ掛かり思わず呟くと、目の前で先程まで珍しく口角を上げて楽しそうにしていた男が、急にむすりとした雰囲気を醸し出していた。
「そう、キスだけ。彼の首にあったキスマークは俺じゃない」
「えっ!?」
蘭の話では項のキスマークも沖矢がやったのだという話だった。ここに来て食い違いがあり素直に疑問に思う。
「じゃあ赤井さんはそれを利用しただけなの?」
「ああ」
成程、そういう事だったのか。漸く納得出来たコナンだったが、目の前の男が未だ不機嫌な事に疑問に思った。
「…何か、赤井さん…怒ってる?」
「怒ってる…?俺が?何故」
相も変わらずむすりとしているのに、自分では気付いていないのだろう。顔は沖矢だからまだマシだが、これで顔が赤井なら、人でも殺して来た後のような恐ろしい顔になっていたに違いない。コナンは思わず身震いした。
「さっきまでは機嫌が良さそうだったのに、キスマークの話になったら急にテンション下がったなーって思っただけなんだけど…」
ハハハ、と乾いた笑みを浮かべると、赤井はさも不思議そうに片眉をひょいと上げた。
「なんて言うか…嫉妬?みたいなー」
ハハハ、というから笑いはそこで止まった。
びっくりしたような表情の赤井がいたからだ。普段そんなに変わることのない表情が、この時ばかりは本気で驚いているようだった。
「──まさか…ホントに?」
自分で言ったことだが、まさかここまで驚かれるとは思わなかった。あんぐりと口を開けて茫然と赤井を見ていると、赤井は少しの逡巡の後にそうか、とだけ呟いた。
「えっ、赤井さん?」
「………」
再びポーカーフェイスに戻った赤井であったが、その顔は思案に明け暮れていた。何を考えているか分からないが、やけに真剣な表情を浮かべている。
やがて、ぽつりと独り言のように赤井の口から言葉が零れ落ちた。
「…彼の首にキスマークがあった時、酷く不快感を感じたのだがそれは嫉妬だったのか」
確かに感じた苛立ち。再び思い出すだけで、胸に燻る不快感に顔を顰めた。再び顰めっ面になった赤井を見ていたコナンは、恐る恐る疑問をぶつけてみる。
「…赤井さん、もしかしてあの人の事…えっと、恋愛感情として好きなの?」
「…好き?」
彼の事が好き?…そうなのだろうか。確かに好意的に思ってはいる。しかしlikeではなくloveなのかと聞かれればどう答えて良いのか分からなかった。