名探偵の受難03

 再び考え込み始めた赤井を眺めながら、コナンは小さく乾いた笑みを浮かべる。まさかただ話を聞きに来ただけなのに、こんな事になるとは思わなかったのだ。

 他人の恋愛事情に口を挟む事はしないが、まさかあの赤井が男…しかも疑惑のある存在に惹かれるとは思いも寄らない出来事だった。

 自分から接触し安室透を探ると言っていたのに、まさか赤井本人の方が絆されているとは。確かに、見た目は何も知らない一般人のように見えるが、もう一人の安室透はそうではない。毛利小五郎に接触してきた事もそうだが、いつも何やら探り掛けるような空気が存在した。弟子入りなんてしなくても充分な推理力も行動力もあるのにも関わらずに、だ。だから余計に言い表せない不信感が彼にあったのだ。

 安室と同じ顔のもう一人の彼。一体何者なのか…。考えても考えても分からない存在に、コナンは不安と警戒心を抱いていた。存在が分からないだけで、本当に害の無さそうな顔をするあの人。一つだけ、赤井に問い掛けてみた。

「…赤井さんはWあの人Wが黒ずくめの組織とは関係無いって考えているの?」

 その言葉に、赤井はゆるりとコナンの方に目を向ける。

「無い」

 キッパリ言い切る赤井に、コナンは難しい顔をしていたのにも関わらず目を丸くして驚いた。

「随分と自信たっぷりだね。何か理由でもあるの?」

「彼の人となり、だな。二人きりで話してみて分かるものもある。…あんな内面も外面も真っ白な人気、他にはいないのだろう」

 ───それが演技なら大したものだが。と付け加えれば、コナンは何処か腑に落ちないような表情を浮かべていた。

「実はベルモット、だったりは?」

「無い。彼の顔や首にも触れたが、マスクやメイクでは無かった。自前であそこまで安室君に似てるのだから、本当に双子か何かだろうな」

「双子…」

 双子ともすれば余計に探りやすいような気もするが、どうしたものか…安室透という人物はなかなか尻尾を表さない。やきもきした感情が胸を支配する。

「あちらも俺の事を探っているようではあるな。やはり…赤井秀一の死を疑っているようだ」

 くくく、とどこか楽しそうに喉を鳴らす赤井。コナンはやはり一筋縄ではいないなと改めて考えさせられた。

「そっか…。分かった、僕の方でも安室さんを探ってみる。赤井さんは…あんまりあの人を追い掛け回さないようにね」

「何故?」

「何でって…赤井さん、気付いてる?あの人の事になるとまるで獲物を追い掛ける猟犬みたいな目をしてるよ」

「…ほぉー」

 一度ロックオンした獲物は逃がさない狼のような鋭い瞳。捕食者のそれに、コナンは少し呆れたような瞳を向ける。

「追い掛け回して逃げられないよう気を付けてね」

「善処しよう」

 再び楽しそうに喉を鳴らす赤井。彼が逃げ切れるのが先か、赤井がその喉笛に噛み付くのが先か。戦いの火蓋が静かに切って落とされた───…。


 

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