零度の微笑み01
今日の天気は晴れ。その予報通り雲ひとつなく気持ちが良い風が吹き抜ける午前11時。普段なら穏やかな空気に包まれている筈の喫茶店ポアロでは、いつもとは違い何処と無く異様な空気に包まれていた。「…ご注文はお決まりでしたか?」
ゴン、とやや手荒に置かれたコップ。中の水がたぷんと大きく揺れたが零れることは無かった。
「………では、アイスコーヒーひとつお願いします」
勢いよく置かれたコップに少しだけ視線を送ったがそれに対して何も言わずに、目の前の男…沖矢は何食わぬ平然とした表情でアイスコーヒーをひとつ注文する。
「かしこまりました」
にっこり口元に笑みを浮かべそう答えると、安室は用が済んだとばかりにすぐに身を翻し足早にカウンターの奥へと消えていった。
───ああ、成程。今日は本物の安室くんか。
沖矢は、いつも以上にピンと張った空気に納得し一人頷いた。口元だけは笑みを浮かべていたが、目は一切笑っていなかった彼を思い浮かべ沖矢は心の中で苦笑を浮かべる。
まさかここまで冷たい視線を受けるとは思わなかった。前々から疑われていたので好かれているとは思っていなかったが、どうやらそれ以前の問題のようだ。
頻りにチクチクと突き刺さるような視線を身に受けるし、少しでも目が合えば舌打ちと共に視線を逸らされる。意外と言うべきか。前の完璧主義なイメージとは違い、実は子供っぽい所もあるのだなと一人思考を凝らす。
今日、沖矢が訪れたのは気まぐれでもなく勿論秋良に会うためだったのだが、居ないのであれば仕方ない。コーヒーを飲んだら早々と立ち去ろうと決意した。
とにかく視線が痛い。いつもなら本でも読みながら適当に時間を潰すのだが、突き刺さる視線が気になって読書どころでは無いのだ。
これはこれは、と沖矢は人知れず小さく溜め息を吐くのであった…。
───一方、安室の方では、一部始終を見ていたらしい梓に捕まっていた。
「えっどうしたんです?沖矢さんと喧嘩でもしたんですか?」
こっそりと小さな声で話し掛けてくる梓。周りを配慮しての行動なのだろう。だが、安室にとっては大きなお世話だった。
「喧嘩?いえ、してないですよ」
そもそも知人ですらない。前々から気に食わない人間だと思っていたが、実は今回が安室にとって初めての接触なのだ。なので喧嘩するほど相手を知らない。ただ、気に食わないだけなのだ。
「そう、なんですか?…何だかいつもより安室さん、素っ気ないように見えたので喧嘩でもしたのかなーって思ったんですけど」
いつもは秋良が困った様に笑いながら会話をしている様子を見ているだけに、梓には今日のこのツンとした安室の行動が変に見えたのだろう。
まるで痴話喧嘩でもしたのだろうか、なんて顔に書いている梓に、安室はひくりと口元を引き攣らせた。
「…別に普通ですけど?」
秋良を頭に思い浮かべながら、アイツいつもどんな距離感で人と会話してるんだと思わずにはいられなかった。帰ったらシバく、と思ったのは言うまででもない。