フラグ回収です01
久々に広末の所に顔を出しに行った秋良は、そこでついついたわいない話を長々してしまったのでいつの間にか時刻は夕方に差し掛かっていた。傾き始めた太陽を背に、秋良はいつもお世話になっているスーパーへと足を運ぶ。
今日は中華にする予定だ。麻婆豆腐も良いし担々麺も美味しそうだ。小籠包に炒飯に海老チリに…。頭の中でメニューを思い浮かべながら、何にしようか悩んでいた所で、ふと目の前に見知った後ろ姿が映った。
「…あ」
沖矢さん、と言う言葉は音にならなかった。やばいやばい、と口を抑えながら慌てて商品棚の影に隠れて相手の様子を窺う。
沖矢も食料を買いに来ていたのだろう。買い物かごの中には数点の食料が入っていた。そんな沖矢の様子を息を殺して眺めながら秋良はひっそりと思った。
───ここで会うのはまずいよなぁ。
本来ならまだポアロにいる筈の時間だ。それなのにスーパーで呑気に買い物してるなんてバレたら、勘のいい沖矢の事だ…すぐに安室透が二人いる事実に辿り着くだろう。それだけは避けなければならない。
今ここで何も買わずに出るという手もあるが、そうすれば今度はもっと遠いスーパーへ足を運ばなくてはならなくなる。ここと別の場所になると徒歩で片道30分はかかるだろう。
───そうすると晩御飯に間に合わなくなっちゃう…。
秋良は悩んだ末に、沖矢の行動を監視しながら鉢合わせないよう買い物をする事に決めた。
沖矢の視界に入らないようにコソコソするのはとても気疲れしたが、意外にも沖矢がこちらに気付く事なくさっさと買い物を終えスーパーから出て行った。
「…はぁーー良かった」
これで漸く落ち着いて買い物が出来る。あまりにも緊張して何が必要なのか訳分からなくなってしまった。うんうん唸りながら買い物を続ける事数十分。漸くお会計も終わり、食材の入ったエコバッグを肩にかけルンルンと歩き出した…その時。
「──おや、安室さん。奇遇ですね」
スーパーを出た所で低く通るような声に呼び止められ足がぴたりと止まった。
振り返りたくない。聞き覚えのあり過ぎる声に、冷や汗が止まらなくなった。それでも顔は少しずつ声のする方へと動き出す。
「…──え、と…」
ギギギ、と壊れたブリキ人形の如く声が聞こえた方へ顔を向けると、そこには缶コーヒー片手に壁に背を預けてこちらを眺める沖矢がいるではないか。
「お…きや、さん」
先に帰った筈では、と思ったのも一瞬。咄嗟に頭に浮かんだのは「逃げるが勝ち」という言葉。その瞬間、どこにそんな瞬発力があったのだと思わんばかりに、脱兎のごとくこの場から走り去った。
一瞬の隙をついて走り出した秋良であったが、逃げる人間を追うのが仕事のFBIに足で勝てる筈も無く。
「──おやおやおや、どちらに行こうと言うんですか?」
呼吸ひとつ乱さず秋良を捕まえた沖矢に、今度こそ秋良は終わった…と天を仰ぐのであった…。