こんにちは異世界01

 とある昼下がり。控えめなノックと共にひょっこり顔を出した彼は、パソコンに向かって何やら熱心に作業している一人の女性に声を掛けた。

「先生、お昼ご飯作りましたので食べませんか?」

「んー…これ終わったらね」

 生返事。その言葉がぴったりな声色に、色黒の彼は片眉をひょいと上げた。

「もう、またそうやって言って…。今朝も何にも口にして無いじゃないですか」

 頬をぷくりと膨らませて怒る姿は童顔なのも相まって彼をさらに幼くみせる。本格的に実力行使してリビングまで連れていくしかないかなと思った所で、先生と呼ばれた彼女は大きな伸びと共に立ち上がった。

「はいはい、今行きますよっと」

 ずっとパソコンに向かっていたせいで肩が凝って仕方ない。ぐるぐると肩を回しながら目の前に立つ色黒のイケメンをじっと見つめる。

「君、外見はかなりイケメンなのに中身はただのオカンだよね」

「誰のせいだと!?」

 プリプリ怒っている彼を横目に、彼女は素知らぬ顔で今日の昼食は何かなーと部屋から出ていった。





「先生、いい加減どうにかならないですか?!」

「むぐ…」

 お昼ご飯はハムサンドだった。今まで食べてきたどのハムサンドより美味しいそれを口いっぱいに含んだ所で、目の前に座る彼が不満だらけの表情でそう切り出した。

「この姿のせいで僕は満足に外にも出れません!」

「…むぐむぐ」

「知り合いどころかW本人Wにばったり鉢合わせしてしまったらと考えると…」

 ひえええ、と顔色を悪くする彼。何を隠そう、目の前にいる彼は本当の姿ではないのだ。

「…むぐ、でもイケメンにして貰って嬉しいでしょ?」

 エッヘンとばかりに胸を張るが、目の前の男はそうは思わなかったようだ。青い顔色を一変させて今度は瞳いっぱいに涙を溜める彼。

「嬉しいわけないじゃないですか!」

 バンっと強めにテーブルを叩く音に彼女は不満げに眉を寄せた。

「だーって貴方の本当の顔なんて知らないし。そもそも死にかけでうちの庭に転がってたのを助けて上げたんだから、感謝をされども文句言われる筋合い無いんだけど?」

 ハムサンドの隣にあったコーヒーを飲みながら一息つくと、目の前の男は苦々しい表情を浮かべながらそれに対しては感謝してますけど…と唇を尖らせながら呟いた。

「そうそう、私がいなければ貴方今頃お空のお星様になってたわよ」

「う、うぐ…返す言葉もございません…」

 そう、目の前ないる彼…観月秋良はある日突然血だらけでほぼ虫の息の状態で彼女の目の前に現れたのであった。

 放っておけば死ぬだろうその彼を助けたのは彼女、広末千代美。この辺では有名な変わり者の医者だった。

 医師免許を持ちながらも何処ぞの病院に勤めるわけでもなく、自宅でひっそり研究に明け暮れる変人。彼女に対する近所のイメージはそんなものだ。

「まあ折角生き長らえたんだし、そのイケメンフェイスで二度目の人生謳歌したら良いじゃない」

「そ、そんな事出来ませんよ!」

 そう、顔面ぐちゃぐちゃで全身ボロボロだった彼を自宅内のオペ室で手術したのは彼女。長時間の手術の末、何とか一命を取り留めた秋良だったが、目を覚まして鏡を見て驚愕。そこに映っていたのは見たことも無い色黒のイケメンで。顎が外れるのではないかというくらいあんぐりと口を開けて呆けてしまったのは記憶に新しい。

「ぐ、ぐずっ…イケメンにしてくれたのは100歩譲って良いとしても…だったら既存の人を模倣しなくても良いじゃないですか!」

 そう、秋良が怒るのも無理はない。広末が行った整形手術の見本はどうやらこの近辺に住む男性らしいのだ。

「どうしてそう身近な人間を真似ちゃうんです!?僕、もう外歩けませんよ!!」

 うわああん、とテーブルに突っ伏して泣き出す秋良。その様子を面倒臭そうな表情で眺めながら広末は深い溜息を吐いた。

「…別に気にしなくても大丈夫だと思うけど」

 世の中には自分と似た顔の人が3人いると言うし。

 ずずっとコーヒーを飲みながらそう言葉を紡ぎ出すが、目の前の男…でかい図体しておきながら中身は意外と繊細ときたものだ。だったらもっと特徴のない顔にしてくれれば良かったのにーと余計にメソメソし出す始末。

「あーうざい。男のくせにメソメソしてるんじゃないわよ!」

「だあって、うう…グズッ」

 顔はかなりのイケメン。しかし中身が違うとこうも違うのか。

 昔、1度だけ接触をした事ある目の前の顔の男を思い馳せて、広末はまたひとつ大きな溜息を吐いた。


 

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