フラグ回収です03

「入れ替わりトリック…?一体何のことですか?」

 あくまでしらを切るつもりか、と沖矢は肩を竦めた。ならばこちらも遠回しの言葉ではなく単刀直入にいくかと表情を引き締める。

「前々から気付いてはいたんですよ。…貴方が本来の安室透ではないと」

 ぴくり、コーヒーカップを持つ指が小さな反応を示した。すっと細くなる青い瞳に、沖矢はくすりと笑みを零す。

「ある日から突然入れ替わりましたよね。流石に顔はそっくりでも中身まではそっくりに出来なかった様ですが」

「…言っている意味を理解し兼ねます」

 まあそう簡単に口を割るとは思っていなかった。意外と言うか、案外口が堅い秋良に沖矢も笑みを深くして対抗する。

「おや、そうなんですか?なら…きちんと証拠を突き付けたら納得して頂けます?」

「…証拠?」

 自信たっぷりな沖矢の言葉に、秋良は何かあると踏んだのだろう。真剣味を帯びて鋭くなる瞳に、沖矢はこんな表情も出来たのかと内心驚いていた。いつもあんなにぽやぽやしていて闇とは無関係そうな顔をしていたのに。

「ええ、動かぬ証拠ってやつですよ。…ところで安室さん、貴方の今日のシフトは何時まででしたっけ?」

 ポアロのシフト。その瞬間、秋良が酷く動揺し、張り詰めていた空気が揺らいだのを感じた。

「おや、どうしました?」

「…今日は夕方まででしたよ」

 成程。表現を曖昧にして誤魔化す気か。ならば誤魔化せないような話を降るまでだ、と沖矢は口角を釣り上げた。

「…では、今日僕がポアロで注文した飲み物は何だか覚えていらっしゃいますか?」

 その言葉に秋良はやはり沖矢が降谷と接触していたかと背筋が凍る思いをしたが、何でもないふうに装いながら沖矢がいつも注文しているWあれWを答えた。

「ブラックコーヒーのホット」

 その瞬間、沖矢の唇に緩やかな弧が描かれた。勝利を確信したような笑みに秋良は訝しげな瞳を向ける。何か間違っていたのか、と言いたげな青の瞳に、微かに開かれた沖矢の緑の瞳が交錯する。

「そうですね、いつも僕は貴方の前でそれしか注文した事無いですからね。それしか飲まないと思うのも無理はないと思います。…でも、今日は違いました」

「っ!?」

「アイスコーヒーを注文したんですよ?貴方に…いえ、貴方そっくりの別人に」

 いつも同じ注文しかしない沖矢がわざと今日だけは別の物を注文していたなんて知る由もない。沖矢昴はブラックコーヒーのホットしか頼まないと思わせるように徹底してそれしか頼んでなかったのだから。

 だからまさかそんな小さな罠がずっと前から仕掛けられていたとは思いもよらなかったのだ。つまり沖矢は随分前から疑っていたのだと、秋良は目の前で勝利を確信して微笑む彼を横目に項垂れた。そして自身の敗北を認める。

「…あーあ、バレちゃったか」

 小さく唸ったあと、秋良は両手を上げ、降参ですと小さく溜め息を吐き出したのであった。


 

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