敵か味方か01
毛利小五郎の妻であり蘭の母親である妃英理が急性虫垂炎で手術をする事になり、杯戸中央病院に見舞いに来ていたコナン達御一行。しかし今、小五郎とコナンがいるのは病室ではなく廊下だった。それもそのはず。「ったく、折角心配して来てやったのに、プリプリしやがって…」
───するだろ。
コナンは呆れた瞳を小五郎に向けた。何故なら小五郎はパチンコをやってて連絡に気付くのが遅れただけではなく、デリカシーのない言葉を投げかけ病室から追い出されたのだ。ぽんぽんと飛んでくるスリッパやらゴミ箱やら…。やれやれと思いながら小五郎と一緒に廊下に出たところで、不意に突然背後から声を掛けられた。
「──あれ、毛利先生じゃないですか?」
「んん?」
その声にハッと振り返ると、そこには最近良く見掛けるようになった小五郎の一番弟子である安室透がいるではないか。人好きのする柔らかい表情を浮かべながら近寄ってくる。
「こんな所で何してるんですか?」
───バーボン!?
コナンは思わず身構えた。何故、こんな所に…。まさか…。色んなことが頭を巡る。
そんなコナンを尻目に安室は小五郎と話を続けた。
「どこか具合でも悪いんですか?」
「いや、ちょっと女房がな…。お前はなんでここに?」
「ああ、知り合いが入院してるって聞いて見舞いに来たんですが、いつの間にか居なくなったみたいで…」
世間話のようなそれを聞きながら、コナンは内心冷や汗をかいていた。
今日ここにいるのはWどっちWなのか、と。注意深く観察していると、安室は思い出したようにコナンに質問をしてきた。
「コナン君は前にもここに来たことがあるって看護師さん達が言ってたけど、知ってるかな?」
「…え?」
「楠田陸道って男」
その瞬間、コナンの表情が一瞬強ばった。
「……だぁれ、それ。知らないよ」
なんとか出した声は震えてはいなかっただろうか。コナンは安室を見上げながら平然を装って答える。
「実はその男にお金を貸してて返して欲しいんだけど……本当に知らないかい?」
安室の表情は変わらない。いつものような穏やかで明るい安室透の顔だ。…そう、最近ポアロに来る方ではなく、元からいる本物の安室透、の。
組織と繋がっている可能性の高い男…いや、繋がっているのだろう。この目の前の男は。そんな彼が楠田の事を訪ねて来るなんて…組織絡みと言っても過言ではない。だから、コナンはしらを切る。
「うん」
知らない、と言う意味を込めて頷くと、途端に釣り上がる口角。安室の笑みにコナンは思わず息を止めた。
「…凄いね、キミは」
「えっ…?」
背中を這う冷や汗。何を、間違えたのだろうか。
そんなコナンを尻目に安室は近くを通りかかった二人組に声を掛けた。
「あの、ちょっとすみません。楠田陸道って入院患者、知りませんか?」
「楠田陸道さん…?さぁ…どんな方?歳は?」
「その人の写真とかあるかしら?」
聞き覚えのない名前に不思議そうに首を傾げる二人に、安室はもう大丈夫だと言って会話を終了させる。二人を見送ってから今度は小五郎へ尋ねた。
「毛利先生ならどうです?突然名前を出されて知ってるかって聞かれたら」
「んーそりゃまあ今のオバサンみたいに…」
「そう。大抵の人は自分の記憶に絶対的な自信は無いんです。だから普通Noと言う前にその尋ね人の名前以外の情報を知りたがる」
でも、とそこでコナンの方へ振り返った。
「だからキミは凄いよコナン君。…名前だけで知らない人と確信出来るんだから」
うっそりと笑う安室に、コナンは背筋を凍らせた。やはりこの男は只者ではない。確信に似たそれに身体を強ばらせていると、小五郎が安室に胡乱気な瞳を向けながらこう口を挟んだ。
「ふん、ガキの言うことを間に受けるなよ」
会った事があっても名前を知らない人もいるし、あだ名とかでしか知らない人もいる。そんな事を話している彼らの後ろで、エレベーターの到着を待つ子どもがエレベーターが来るのを待ちきれないとばかりにカウントしていた。
「さん、にー、いち、…ゼロ!」
「!」
その言葉にハッと思わず反応したのは安室だった。
「お母さん、エレベーター来たよ!」
「はいはい」
何気ない光景だ。至って普通の親子がエレベーターに乗り込む。それをぼんやり眺める安室に、小五郎はどうかしたのかと尋ねた。
「…っあ、いえ。僕のあだ名もゼロだったので呼ばれたのかと」
「なんでゼロ?」
確か名前は透だったよな、と考え込む小五郎に、安室は小さく笑いかける。
「透けてるって事は何も無いって事。だからゼロ。子どもが付けるあだ名の法則なんてそんなものですよ」
「…………」
それを聞いたコナンが何か考えていたなんて、この時安室は気付いてはいなかった。