敵か味方か04

「明日遅くなるから、先にご飯食べてて良いから」

 二人向かい合ってご飯を食べている時に、突然ゼロくんからそう言われた。

 いつもはどんなに遅くなっても待っていたし、もし日付が越えるような事があればその日のうちに連絡をくれるので先に食べていた事もあるが、事前にそう言われたのは初めてだった。

「え、と…待ってるよ?」

「いや、結構遅くなると思う。ポアロも明日は午前中だけだろう?俺が行くからたまにはゆっくり休んでて」

 きっぱりと言われたそれをご飯と一緒に脳内でゆっくり咀嚼し、僕はこくんと頷いた。

「…分かった」

 ゼロくんがそう言うなら反論はしない。理由も聞かないし、探らない。それが僕が決めた僕の中でのルール。

「それじゃあ、明日は一日大掃除でもしようかな」

 にこりと微笑みながら煮魚を頬張る。本当は大掃除する程汚れてもいないのだけれど、適当に理由をつけて少しでもゼロくんを安心させるような言葉を吐き出すのだ。

 だって、ほら。

「…うん、そうだな。それが良い」

 あからさまにホッとしたような顔をするから。

「ゼロくんはお仕事頑張ってね」

「ああ。ありがとう」

 何かが水面下で起こっている。僕には考え付かないような何かが起きているだろう。だからきっとゼロくんは僕を外に出したくないのだ。

 僕に出来ること。それは、何にも知らないふりして決して邪魔をしないこと。足でまといにならないように、ただ素知らぬ顔で笑ってゼロくんを待っていれば良い。

「あ、明日晴れるんだねー」

「本当だ。洗濯日和だな」

 テレビから天気予報が流れて、そっちに話を逸らせばすぐに乗ってくれる。お天気お姉さんが笑顔で明日の紫外線指数の話をしていた。

「あっじゃあ明日お布団の天日干しも出来る!」

 笑って、隠して、知らぬ顔。気付いていても互いに触れない。そこから前は僕の領分では無いから、踏み入れる事は出来ない。

 僕は僕の領分をしっかりと理解している。どこまでが許される範囲なのか。決して越えることの出来ないラインを見極めていた。

「ご馳走様。今日も美味しかったよ」

「お粗末様でした」

 ご飯も食べ終わったら後は片付けて終わり。いつもは楽しいはずのご飯の時間が少しだけ息苦しく感じたのはきっと気の所為。

 洗剤で泡立った食器を洗い流しながら、ぼんやり排水溝へ流れていく泡を見詰めていた。

 ザーザーと流れる水とともに吸い込まれて消えてゆく。

 留まることは出来ない泡。流されて流されて消えてゆく。

「まるで僕みたい…」

 ぽつりと呟いた言葉は誰に聞かれることもなく、水とともに静かに流れて行った。


 

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