敵か味方か06
コツコツと、ヒールがアスファルトに擦れて音を立てた。暗闇の中から現れた女は目の前に止まった車に颯爽と乗り込む。「…意外に遅かったですね。来てくれないんじゃないかとヒヤヒヤしました」
そう最初に口を切ったのは褐色の肌に明るい髪色をした男…バーボン。緩やかな笑みを口元に浮かべながらアクセルを踏んだ。
走行音をBGMに、女は溜め息混じりに首元に巻かれたスカーフをくいっと引っ張ってみせると、緩やかに言葉を紡ぎ出した。
「彼女のスカーフに似た柄が中々売ってなくって」
「なるほど」
相槌を打ちながらバーボンはちらりと隣の女に視線を送る。
「で、守備は?」
その瞬間、女の口元に笑みが広がった。
「楠田って男…貴方が予想してた通り…」
顔に手を添えると、女は勢い良くWそれWを引き剥がした。そう、彼女は変装をしていた。それもFBI捜査官ジョディ・スターリングに。そのジョディの顔したマスク平然とを後部座席に投げ、女は本来の美しい顔でゆるりと微笑んだ。
「拳銃自殺、したそうよ。…自分の車の中でね」
彼女の名前はベルモット。知人を騙せるほどの声色と変装術を持った黒の組織の人間である。
バーボンはベルモットの情報を聞くと、その顔に仄暗い笑みを浮かべた。
「やはり…そういう事ですか」
自身の推理がまた一歩真実に近付く。無意識のうちに浮かべた笑みに、ベルモットはやや詰まらなそうな表情を見せた。
「それで?何なのよ、楠田陸道って。組織の一員だったらしいけど、コードネームも与えられていない男が拳銃自殺したからって何だって言うのよ」
一人の男が…それも、仲間であったはずの男が拳銃自殺したと言うのに、何にも思っていないふうに冷たく言い放つベルモット。常に死と隣り合わせな組織の中で、人が死ぬのは最早当たり前。同情すら湧き上がらないのだ。
そんなベルモットに、バーボンは前をしっかり見据えて運転しながら口を開いた。
「もし、拳銃で自殺する場合、貴方ならどうします?」
脈絡の無い話に一瞬顔を顰めたが、ベルモットは言い返すのをやめ素直にその問い掛けに応じる。
「そうね…銃口をこう、こめかみに当てて…」
指で銃を表し、右手をこめかみに当ててみせるベルモット。その様子をちらりと見て、バーボンは再び言葉を続ける。
「そう。そして弾痕は頭蓋骨にしっかり残る。───例え、遺体が燃えようとも」
「え…?」
急にバーボンの周りの温度が下がった様に感じられた。不穏な空気に思わずベルモットはじっとバーボンを見詰める。
「いましたよね?楠田の消息が途絶えた頃、時を同じくして頭を打たれて焼かれた男が」
ハッと息を飲んだ。
「そ、それって…」
「そう」
バーボンは憎しみに燃えた瞳を真っ直ぐに向けたまま、その名を口ずさむ。忘れもしない、あの男の名前を。
「FBI捜査官…──赤井秀一」