敵か味方か12
一方、工藤邸で安室の推理を聞いていた沖矢はいつもと変わらない飄々とした表情で問い掛けていた。「中々興味深いミステリーですが…その撃たれたフリをした男、その後どうやってその場から立ち去ったんですか?」
その問い掛けに答えることなく、安室は沖矢の背後で音を立てるテレビにふいと視線を送る。
「…それを答える前に、テレビを消してくれませんか?大事な話をしているんですから…」
「良いじゃないですか。気になるんですよ、マカデミー賞」
ここの家主…と言っても居候だが…がそう言うなら止めることも出来ない。安室はひとつ大きな溜め息を吐いた。
「…それで?その男はどうやって?」
テレビはそのままで話を促してくる沖矢に少し辟易としながらも安室は再び話し始めた。
「その男を撃った女とグルだったんでしょうから、恐らくその女の車にこっそり乗り込んで逃げたんでしょうね。離れた場所でその様子を見ていた監視役の男の目を盗んでね」
「───監視役がいたんですか」
「ええ。監視役の男はまんまと騙されたって訳ですよ」
監視役…ジンの事を思い浮かべ、こうも簡単に騙されるとは間抜けなやつだと内心ほくそ笑む。
しかしまあそれも仕方ないか、とも思った。
「何しろ撃たれた男は頭から血を吹いて倒れたんですから」
「頭から血を…」
そう、銃で撃たれて頭から血を流せば誰だって死んだと思う筈だ。ジンも例外なくそう思ったのだろう。これで裏切り者のライ…赤井秀一は死んだ、と。
「だがそれもフェイク。撃たれた男はいつも黒いニット帽を被っていましたから…。この近所にはMI6も顔負けの発明品を作っている博士がいるそうじゃないですか。彼に頼めば空砲に合わせてニット帽から血糊が吹き出す仕掛けくらい簡単に作れそうだ」
そう、そもそもこれには協力者がいなければ成り立たない。死んだふりをする赤井、殺したふりをするキール、血糊を吹き出す空砲を作り出す阿笠博士、そして…。
「じゃあそのグルの女に頭に向けて空砲を撃ってくれと頼んでいたんですね」
「…いや、頭を撃てと命じたのは監視役の男。予想していたんですよ。監視役の男が拳銃でとどめを刺す際に必ずそうすると」
そう、このシナリオを思い描いたW彼Wが、見事なまでここまで予想したのだ。アイツが…ジンが、拳銃で頭を撃ち抜けと命令すると…。
「───中々やるじゃないですか、その男。まるでスパイ小説の主人公のようだ」
「だが、この計画を企てたのは別の人物」
───そう、赤井秀一ではない、別の人物。
「その証拠に、その男は撃たれた刹那にこう呟いている」
───ふん、まさかここまでとはな。
「ってね」
「まさかここまでとはな。ですか?私には自分の不運を嘆いているようにしか聞こえないですが…」
「ええ。当たり前に捉えるとね。だが、これにある言葉を加えるとその意味は一変する…!」
───まさかここまでとはな。
「まさか、ここまで…W読んでいたWとはな…!」
その瞬間、安室は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「そう、この計画を企てた、ある少年を賞賛する言葉だったって訳ですよ」
「───なるほど、面白い」
表情ひとつ変わらない沖矢の眼鏡が光の反射できらりと怪しく光を放った。