こんにちは異世界03
「右よーし、左よーし」キョロキョロと辺りを窺いながら、秋良は広末から借りたスマートフォンを片手に外を歩いていた。
あの後、滅多に家に帰ってこないと言う話を聞いた秋良は、ならちょっとの間出掛けても大丈夫なのでは?と言う考えに行き着いたからである。マスクに帽子にサングラス。本人は完全防備と思っているが、これではただの不審者だとは気付いていない。
「よし、行くか!」
とにかく、秋良には外に出たい理由があった。
「いい加減、僕がいきなりいなくなって会社にも迷惑かかってるだろうし…」
そう。急に居なくなって心配しない訳がないのだ。
最後の記憶は冬目前の寒い日であったのに、今はぽかぽか陽気が気持ち良い春。どうやら眠っていた期間とリハビリ期間が長すぎたようだ。
きっと警察には行方不明届けが出されているだろう。唯一救いなのは秋良には家族が居ないことだ。
幼い頃に母は病気で亡くなり、男手一つで父に育てられた秋良。小学校、中学校、高校、大学二人で頑張って暮らしてきた。就職活動も終わり、もう少しで父を楽にしてやれると思った矢先…父が脳梗塞で倒れそのまま帰らぬ人となった。
今まで親戚らしき親戚と付き合いなど無かった秋良は、この日を栄えに天涯孤独となったのである。だからといって荒れたりとかはしなかった。そこまで子どもではなかったし、最愛の父を亡くしたことは秋良の心を蝕んだが、いつまでもクヨクヨウジウジしてたら怒られると気丈に生きてきた。
そして会社の仕事にも慣れてきた頃、漸く家族になりたいという人に出会えたというのにも関わらず浮気されてて…。その日のうちに事故って見た目が変わるなんて思いもしなかった。
こんな見た目では会社に顔を出した所で不審者として警察に突き出されるだけだろう。だがしかし秋良には会社にしか自分を知る人がいないと思っていた。だからひと目だけでも会社の人を見付けたい。あの日弄りに弄り倒してきた上司でも何でもいい。とにかく、自分という存在を見つけたかったのだ。
「えーと、取り敢えず最寄り駅はっと…」
その為には駅に行かなければならない。この辺の地理には明るくない。駅に着いてしまえば会社まで辿り着くのも難しくないと踏んだからだ。スマホでマップを開き、駅を確認しようとして違和感に気付く。
「…んん?」
見たことも無い知らない駅名。何処だここ、と思いながらも取り敢えずそこの駅まで歩いて行く事にした。
数十分歩き、漸くお目当ての駅に辿り着いた。
「えーと…路線案内は、っと」
違和感しか感じない駅名。現在地は何処なのだろうかと探していると、どれもこれも知らない路線である事に気が付いた。
「…え?どういうこと?」
見た目は間違いなく東京の線路図。それなのに、駅名が全然違っていた。
「いやいやまさか僕が眠ってる間に名前変わっちゃったの…?」
そんな大掛かりな名前変更が起きたなんて信じられない。混乱する頭でうんうん唸っていたら、突然何者かにトントンと肩を叩かれた。
「はい?」
くるりと振り返ればそこには苦い表情をした警備員。
「ちょっと話聞かせてくれるかな?」
…生まれて初めて職質されました。