敵か味方か16

「───5秒だ」

「えっ!?」

 何の脈略もない赤井の言葉に、キャメルは挙動不審になりながらも反応を示す。…それもそうだろう。何せ、先程まで赤井は死んでいたものだと思っていたのだ。それなのに急に…それも車にいつの間にか乗り込んでいただなんて考えも付かなくて動揺するのも当たり前である。

 そんなキャメルに構わず赤井はいつも通り落ち着いた表情で、淡々と言葉を紡ぎ出した。

「もう少し行くと、200メートルのストレートがある。そこに出たら5秒間、ハンドルと速度を固定しろ。…このくだらないチェイスにケリを付けてやる」

 ふっ、と短く笑みを零した赤井に、キャメルは漸く顔を綻ばせた。赤井がいればこんなにも心強いのかと、安心出来るのかと心からそう思った。

「りょ、了解!」

 覚悟を決め前を真っ直ぐ見据えるキャメル。そんなキャメルとは裏腹に、ジョディはまだ混乱し落ち着かない表情で赤井に問い掛けていた。

「って言うか、あんたどこで何をやってたのよ!?なんで車に乗ってるわけ!?」

 ジョディの疑問も最もだ。みんなを騙し死んだと思わせて置いて突如現れる。しかも何故かこの車に乗り込んでいたとは…。何が何だかさっぱりなジョディに、赤井は短く笑みを零した。

「全て思惑通り、だよ。あの、ボウヤのな」


 追い掛けてくる車を猛スピードで躱しながら赤井の言うポイントまで車を走らせる。

「あのボウヤって…もしかしてコナンくん!?」

「ああ。俺の身柄を抵抗なしで確保するには、俺とつながりの深いお前達のどちらかを拘束する筈。人知れずそれを実行するにはFBIの仲間から離れる車での外出中。俺の死に不信感を持ち始めていたジョディなら恐らくこの来葉峠に来ると的中させていたよ」

 ここまで全部的中させるとは思わなかったが、とは言わなかった。コナンの先を見通す力は赤井の死の偽造の段階で充分に理解させられている。末恐ろしい男だ、と笑みを浮かべた。

「キャメル」

「はいっ」

「次の右カーブを抜けたら200メートルのストレートだ」

 さあ、ここまで見事なまでに完璧なお膳立てしてくれた彼の為にも、このくだらないカーチェイスに決着をつけてやる。赤いは銃のセーフティーをカチリと外した。

「了解!右カーブを抜けたら5秒間ハンドル、速度を固定します」

「無茶よ!タイヤのエアー漏れで車が揺れているのに拳銃の標準を定めるなんて…!」

 赤井は座席に足を伸ばし助手席に背を向け身体が動かないように固定させる。

「問題ない。規則的な振動なら計算出来る」

 カチャリ。銃を真っ直ぐ構えた。

「シュウ…」

「右カーブ!」

 キャメルの声に緊張感が走る。

「任せたぞ、キャメル」

 これを抜けたら200メートルのストレート。赤井の周りに張り詰めたような緊張感が走る。銃の標準を合わせその時を待った。

「ストレート!!」

「了解」

 ──カウントダウンが始まる。

「1、2、3、4───」

 5、のタイミングで見事追って来ていた車の右前輪のタイヤを撃ち抜いた。

 突然タイヤを撃ち抜かれた車はそのままバランスを崩し後続車を巻き込み停車するしかなかった。慌てたような怒号が聞こえる。そして赤井達が乗る車もエアー漏れでバランスを崩しガードレールに接触しながらも、何とか敵の追従を振り切る事に成功した。




「はあっ、追ってこないって事は振り切ったようね」

「流石赤井さん!」

 敵の追従を振り切り安心したような笑みを浮かべるジョディとキャメル。赤井は未だ背後を気にしたまま、一度だけちらりとキャメルに視線を寄越す。

「キャメル」

「へ?」

「戻れ」

 短く命令する赤井に真っ先に声を荒らげたのはジョディだ。

「ええっ!?」

 何故敵を振り切ったのに再び戻れと言うのか。混乱するジョディを差し置いてキャメルは「了解!」と自信たっぷりに頷いた。

「ちょっと嘘でしょ!?」

 有り得ない、と顔全体に書いているジョディ。しかし赤井に絶対的信頼を置いているキャメルには、その赤井の命令を拒否するなんて考えられない事だった。信頼、ただそれだけでキャメルは元来た道を再び戻り出したのであった。


 

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