敵か味方か17
「何!?赤井が拳銃を発砲!?それで追跡は…っ」安室は苛立たしげに歩きながら、電話越しに向こうの状況の確認を急ぐ。
『それが、走行不能車の続出で…!』
「何でもいい!動ける車があるなら奴を追え!!今逃したら今度は何処に雲隠れするか…っ!」
───ごほん。
「!!」
急に聞こえてきた咳払いに、安室はハッと後ろを振り返った。
「少々静かにして貰えますか?今、この家の家主が大変な賞を受賞してスピーチをする所なんですから…」
テレビ画面に視線を促すと、そこには壇上にあがりこれからスピーチを始めようとしている工藤優作の姿が目に入った。
「会ったことはありませんけどね」
大きなテレビ画面に映し出された工藤優作の姿。歓声の中現れると、静かになった頃を見計らってスピーチが始まった。
「し、しかし追えと言われてもこの状況では…」
どうするべきなのか。ざわつき落ち着かない周りに辟易しながらも上司の指示を待っていたその時、赤井を乗せた車が今まで追って来ていた男達の前に緩やかに停車した。
「大丈夫か?」
「あ、赤井…!?」
口をあんぐり開けて目の前の男…赤井秀一を見詰める。
『赤井!?お、おい!』
電話越しに聞こえる安室の声を聞きながら、周りにいた男達は皆一斉に赤井に向かって拳銃を構えた。
『赤井がそこにいるのか、おい!?』
安室の言葉に反応する事が出来ない。辺りは一気にピリピリと肌に突き刺さるような尖った緊張感に包まれていた。
そんな空気の中、赤井は気にした素振りもなくいつも通りの落ち着き払った顔で平然と口を開く。
「…悪く思わんでくれよ?仕掛けてきたのはアンタらの方だし、ああでもしなければ死人が出かねぬ勢いだったからな。そこで提案だが、今アンタが持っている携帯とさっき発砲したこの拳銃…交換してはくれないか?」
ざわり。辺りに動揺が走る。
『おいっどうした!?状況は!?応答しろ!』
安室の焦った声に反応したのは部下では無かった。
「やあ、久しぶりだなバーボン」
『っ!?』
電話越しに息を呑む音が聞こえた。
「いや今は安室透君、だったかな?」
『…っ!!』
突然の赤井の声に、安室は奥歯を強く噛み締める。激しい憤りを感じながらも赤井の言葉を待っていると、低いゆったりとした声が携帯越しに聞こえていた。
「君の連れの車をお釈迦にしたお詫びに囁かな手土産を授けた。楠田陸道が自殺に使用した拳銃だ。入手ルートを探れば何か分かるかもしれん。ここは日本。そういう事は我々FBIよりも君らの方が畑だろ?」
赤井の平然とした言葉に、安室は無意識のままゴクリと唾を飲み込む。まさか、と顔色が悪くなる。
『まさか、お前…俺の正体を…』
「組織にいた頃から疑ってはいたが、あだ名がゼロだとあのボウヤに漏らしたのは失敗だったな。───降谷零君」
『っ!!!!』
電話越しでもかなり動揺した様子が窺える。赤井は構わず言葉を続けた。
「ゼロとあだ名される名前は数少ない。調べやすかったよ。恐らく俺の身柄を奴らに引き渡し大手柄を上げて組織の中心近くに食い込む算段だったようだが…。これだけは言っておく。目先の事に囚われて、狩るべき相手を見誤らないで頂きたい。君は敵に回したくない男の一人なんでね。それと…」
一度言葉を切り、声を一段と潜めてこう言った。
「──彼の事は今でも悪かったと思っている」
『っ!?』
電話越しでも分かる安室…いや、降谷の動揺と憤怒。それらを無視して更に言葉を続ける。
「ああ、あと君の兄、秋良君…だったかな?彼の事を調べても何も出てこないのは一体何故なんだろうか」
『っ貴様!何故その名前を…っ!!』
今日一番の怒りを滲ませた声音に、赤井は電話越しにも関わらずひょいと肩を竦めた。
「まあ成り行きでね。そして今ここに君の兄がいるんだが…彼は車にトラウマでも抱えているのか?カーチェイスの途中から気を失ってしまったみたいなのだが」
『何っ!?秋良がそこにいるのか?!』
それに慌てたのは降谷の方だ。まさかいつの間にか秋良を人質に取られていたとは…。赤井はちらりと後部座席で気を失っている彼に目を向けた。さらりと額にかかる前髪に触れ、そのまま輪郭をなぞる様に指を滑らせたが、秋良が目を覚ます様子は無かった。
「…ああ。一応俺にも保険が必要だってのでね。大丈夫、何も危害は加えてない。ただ気を失ってしまっていてね…。取り敢えず彼の身柄はそこにいる彼らに任せる事にしよう」
『くそ、なんで秋良が…っ!』
安室の言葉に反応せず赤井は携帯を持ち主に投げて渡した。そして後部座席でぐったりと横たわっていた男…秋良を抱き上げ目の前の男達に受け渡す。
「気を失っているが恐らく直に目を覚ますだろう」
「えっ降谷さん!?」
ざわり、空気が大きく揺れた。それもそのはず。赤井に抱き抱えられている男の顔が自分達の上司と瓜二つだったからだ。
全く状況を把握出来ていない部下達がざわついている中、赤井は今がチャンスとばかりにキャメルに声を掛ける。
「ではあとは頼んだぞ…。よしキャメル、車を出せ」
その言葉を合図に、赤井達はこの場から颯爽の立ち去って行ってしまった…。