敵か味方か18
『おいっ?!応答しろ!』「は、はい!降谷さん」
携帯電話から聞こえてきた降谷の声に、部下は混乱した頭のまま反射的に反応を示した。
『そこに秋良……俺と同じ顔の男がいるのか!?』
「は、はい」
確かに目の前には顔色が少し悪くぐったりと気を失っている降谷似の男がいた。呼吸はしっかりしているのでただ気を失っているだけだと判断する。
『くそ、なんで…。っ今そこに俺も向かう。待っていろ!』
くれぐれも丁重に扱えよと言われ、部下の顔に緊張感が走る。
「りょ、了解しました!赤井はどうしますか?追いますか?」
降谷似の男を取り敢えず車の後部座席に寝かせるよう指示しながら、降谷にこれからどうするか指示を煽った。しかし、電話越しに聞こえてきたのは悔しさを滲ませたW安室透Wの声だった。
『…いや、我々の正体を知られた以上、これ以上の深追いは危険です…』
そういうなり降谷は一方的に通話を切ると、悔しそうに唇を噛み締めた。まさかこんな事になるなんて予想外だ。
赤井に逃げられただけでは無く、全くの無関係であるはずの秋良まで巻き込んでしまったのはこちらの不手際になる。降谷は悔しさを滲ませながら携帯電話をポケットにしまい込み、今までずっと放置していた沖矢に貼り付けた笑みで向き合った。
「っあ、すみません。何か勘違いだったようで。帰りますね」
降谷は沖矢にそう言うと身を翻して玄関へと向かう。
「ええ」
「あ、帰る前にひとつ聞いても良いですか?」
「何でしょう?」
「どうして僕のような怪しい人間を家に入れたりしたんです?」
普通、こんな夜半にそんな親しくもない喫茶店の店員とお客だけの関係の男を家に招き入れないだろう。疑問に思いそう尋ねたのだが、沖矢は何でもないふうにごほん、とひとつ咳払いを零す。
「是が非でも話がしたいと言う顔をされていたので…つい」
「はは、そうですか」
いつにもなくマイペースな男だ、と思うのも無理もなかった。
降谷は外で待機していた部下達にテキパキと指示をすると、自分も急いで車に乗り込み秋良がいる来葉峠に向かった。
白のRX-7が部下達の目の前で物凄い音を立てて停車した。
「───おい!秋良は…」
ドアを開け車から降りるなり焦ったような表情で秋良を探す降谷に、部下は珍しい姿を見たと目をぱちくりさせながらも「あちらに…」と促す。
「秋良!」
慌てた様子で駆け寄る降谷。あれから間もなく目を覚ました秋良は降谷の姿を確認するなりホッとしたように息を吐き出し青の双眸を降谷に向けた。その瞬間身体に走る衝撃。
「…っこのバカ!」
人目をはばからずぎゅっと抱き締めてくる降谷。秋良はそっと腕を回すと、小さくごめんねと呟いた。
「身体は?どこか痛いとか不調を感じたりは?」
そっと離れると降谷はボディチェックとばかりに秋良の身体をぺたぺたと触り出す。まさかとは思うが、念の為の盗聴器チェックだ。
「大丈夫。どこも痛くないし怪我もないよ」
ふんわり笑って降谷にされるがままになっている秋良。降谷も秋良の様子から何かされた訳では無いのだろうと判断し、漸く肩の力が抜けた。
「はぁぁぁぁ…良かった」
そう言うなり、降谷はまた秋良を抱き締めて首筋に自身の顔を埋める。
「ごめんね、心配かけて」
「本当にな。…何でこうなったのか後で洗いざらい吐いてもらうからな」
首筋に顔を埋めたままモゴモゴとそう言う降谷に、秋良は少しだけ困ったような笑みを浮かべる。そしてポンポンとあやすかの様に降谷の背中を規則正しく叩いていると、降谷の抱き締めている腕に少しだけ力が篭った。
「……え、…と」
ちなみにその光景を周りの部下達は口をあんぐりと開け呆然と見詰めていた。
普段はあんなに他人にも自分にも厳しい仕事人間が、こうやって誰かに甘えている姿なんて想像も出来なかったのだ。
あまりにも衝撃的な光景に、部下達は暫くその場から動くことが出来なかった…。