二人の降谷02

 秋良が降谷のためにコーヒーを入れに行ったのを確認してから、風見は降谷が座るデスクに資料を持って近付いた。

「すみません降谷さん、こちらの資料の確認お願いします」

「ああ」

 風見の顔をちらりと見てから手渡された資料に目を通す。パラパラと速読する降谷が資料を全て読み終わるのを直立したまま待っていた。時間にして数分。漸く読み終わり降谷のOKが出たのを確認してから引き下がろうとして、風見は思い出したように足をピタリと止めた。

「どうした?」

 その様子にいち早く気付く降谷。風見は一瞬、聞こうか聞かまいか視線を漂わせ躊躇った後に、ゴクリと唾を飲み込むと意を決して降谷に尋ねた。

「……前に、免許証など複製した時がありましたが、それは秋良さんのためですか?」

「…と言うと?」

「降谷さんが免許証などを失くすなんて考えられません。何故複製したのか今まで疑問に思っていましたが、それが秋良さんの身元を隠すため…だとしたら」

 それなら納得出来ます。と目でそう訴えると、やけに冴え切ったブルーグレーの瞳とかち合った。風見の心を探るような瞳。風見は蛇に睨まれた蛙のように身動きひとつ出来ず、降谷が口を開くのをただひたすら待った。

「…………」

「………っふ、」

 数分の沈黙の後、降谷は小さく笑みを零し言葉を紡ぎ出した。

「風見、お前は出世出来るだろうな」

「は、はい?」

 唐突過ぎる脈略の無いそれに目を白黒させていると、降谷はいつもは浮かべる事が無いような柔らかい笑みを浮かべ小さく口角を上げて見せた。

「……ただ、藪をつついてそこから何が出るのか、しっかり考えた方が良い」

 暗に秋良の事を探ると蛇が…いや、もっと恐ろしい物が出るぞと目が語っていた。

「好奇心は猫を殺す、だろ?」

「…………」

 降谷の言葉に、風見は顔を青ざめさせながらこれ以上は何も聞くまいと口を閉ざすのであった。










 風見が席から離れてから降谷は考えていた。公安のみんなには秋良を兄だと紹介したが、少し探れば秋良なんて人物が居ないということはすぐに分かることだ。データーベースに手を加えて秋良を兄だと改竄する事は簡単だ。しかし、それによって秋良が危険な目に合う可能性が一段と高まってしまうのも事実。

 今の幽霊のように足のつかない状態だから誰に探られることも見つかる事もないと安心出来ていたが、こうしてFBIや公安に存在がバレてしまった以上、このまま足がつかないからとただ宙ぶらりんのままにしておくのもこれ以上は危険だ。

 現に赤井は何故秋良の身元が探れないのか不審に思っているようだった。それもそうだろう。厳重に保管している降谷の身元ですら探れたのに、何故一般市民の秋良の方が何も出てこないのか不審に思わないわけが無い。

 実際はこの世の人間では無いから何も無いまっさらな状態なのだが、そんな事誰も知らないしまさかそんな事だとは思いもよらない出来事だろう。

 今まで何も手を付けてこなかった難題に赤井が安易に触れてしまったがために、こんな面倒な事態に陥ってしまった。まあ、後回しにしてきた降谷も悪いのだろうが。それでもそれが赤井が秋良を巻き込んだために起きてしまったと考えると、今すぐにでもあのスカした面に全力右ストレートをぶっぱなしてやりたいと考えるのも無理はないと思うのだ。

 しかも、赤井は秋良のトラウマ……トラックに跳ねられた時のスキール音や衝撃音を知らずに連れ回し気絶させた前科がある。そりゃあ自分が死に掛けた時の状況と被ってしまえば意識を失うのも当たり前だ。それを知らなかったとは言え、秋良の心に負担を掛けた罪は重い。降谷のW赤井絶対殺す数値Wが一段と跳ね上がった。

 そんな事をつらつら考えながら報告書にサインをしていたのだが、視界の端にコトリとマグカップが置かれ降谷はそこで漸く思考を止め顔を上げた。


 

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