二人の降谷04
給湯室に逃げ込んだ秋良は、先程の降谷の行動を思い出して頬を赤らめながら唇を尖らせていた。食べさせてと言うから銀紙を剥ぎチョコレートを差し出しただけなのに、それをまさか指ごと食べるとは思わなかったのだ。
指先に這う温かい降谷の舌の感覚にも驚いたが、最後にわざとらしく吸い付いたのはきっとただの嫌がらせだ。秋良が慌てふためく様子を見たいがためにやったのだろう、と勝手に解釈していた。
「全く…ゼロくんったらすぐあー言うことする…」
油断も隙もない、とぶちぶち文句を垂れながらも借りていたお盆を指定の場所にしまい小さな溜め息をついた。
「これからどうしようかな…」
やることが無い。そもそも本来居るべく人間では無いから大っぴらに外を歩く事も出来ないので、結局この公安の所属するフロアに留まるしか無いのだ。
コーヒーを全員分入れた今、お代わり等を要求されればすぐに用意出来るように電気ポットにお湯はしっかりと入れてある。しかし、無駄にお代わりはーと声を掛けて公安のみんなのお腹をコーヒーでタプタプにする訳にもいかない。そんな事したらもれなくみんなトイレの住人になってしまう。
「んー…何か出来ること…」
殆ど無意識に給湯室のシンクを掃除していた手を止めて「あっ」と声を漏らす。
「仕事が無ければ仕事貰えばいいんだ!」
ふっふーん、と鼻歌を歌いながらシンクを掃除し終え手を洗うと、秋良は再び公安の執務室へと戻って行った。
「…秋良、お前はまた何を…」
パチン、とホチキスの音を立てながら声のする方へ顔を向ければ、そこにはやや呆れたような表情をする降谷がいた。
「んーホチキス止め?」
再びパチンと音を立てるホチキス。何枚も重なった次に使う資料の束。降谷は顔を手のひらで覆うと、深い溜め息を吐いた。
「だから、何でそんなことをしてるんだ」
「あんまりにも暇だったから、僕にも出来る仕事下さいって言ったら仕事くれたの」
あっけらかんとそう言う秋良。降谷は誰だそんな事した奴は、とざっと周りを見渡すが物凄い反射神経で全員から目を逸らされた。なんて奴らだ。
「僕がやりた言ったことだから、怒らないであげて?」
じっと見上げられてそう懇願されれば、何も言えず降谷はぐっと口を噤んだ。
「それに暇すぎてお茶汲みしまくってみんなのお腹をコーヒーでタプタプにする訳にもいかないし」
「新手のテロか」
「ふふふ、だからね?」
特に見られても問題は無い資料ではあるが、それでも無関係である秋良に手伝って貰うのはどうなんだと悩んでいると、それを感じたのか秋良は降谷をじっと見詰めていた。
「みんな休まずに仕事してるのに僕だけ暇してるのは嫌なんだ」
「…お人好し」
「何とでも」
ニッと笑って見せれば漸く降谷の顔にも笑みが浮かんだ。