そういうイベント
部屋に入ると、私が居ない間に準備していたらしい白石君の寝巻きや包帯などがベッドの上に置いてあった。
その寝巻きとは別に、もうひとつ黒のスウェットのらしきものが置いてある。
もしや、私が着る分用意してくれてたとか…?
白石君はベッドの上の寝巻きと包帯を手に取りながら、私を振り返った。
「そういえば、友香里の服入ったんやな」
「フフン!ピチピチならんくて良かった!」
「当然やと思うわ。まぁ…俺としては入ってくれへんかった方が嬉しかったんやけど」
白石君はしゅんっとうなだれながら、ベッドの上の黒のスウェットを見下ろした。
もしかしなくてもそれって私に用意してくれてた服だったのーー!
「友香里ちゃんの入ったから、白石君のは…」
「さっきは俺の服着て一緒に寝たい言うてくれてたのに」
「いっ…それは勢いで言っちゃっただけというか。でも一緒に寝るのは変わらんよ。」
「せやけど……よう考えたらちょっと複雑やと思わん?彼女が自分の妹の服着てるって。寝にくない?」
もし彼氏が自分の妹の、じゃなくて弟の服を着たとして、一緒に寝にくいかと言われると………
私はそうでもないな。
彼氏も弟も家族みたいなものだし。
弟いないけど。
白石君自身の立場に立ったら、やっぱり複雑なものなんだろうか?
「でもせっかく借りたのに」
「はあ…オカンが余計なこと言わんかったら、真っ先に俺の服勧めててんけどな…」
お泊まりが決まった時、最初に友香里ちゃんの服を寝巻きに着るよう提案してくれたのは白石君のお母さん。
そう言ってくれて私は嬉しかったけど、白石君はそうでもなかったという訳ね…
白石君はしおしおっと背中を丸めながら、寝巻きを持って部屋のドアに向かった。
「ほな、風呂入ってくるわ…」
「わかった、先寝とく!」
「冷たっ、そこは嘘でも待ってるって可愛く言うてーな…」
落ち込んでる白石君に追い討ちをかけるように意地悪を言って、お見送りした。
せっかく白石夫婦のおかげで緊張がほぐれていたというのに、また胸がざわざわしてきてる…
部屋の中にひとり
わざとらしくベッドの上に残されていった黒いスウェットを手に取った。
どうしよう。
白石君の複雑な気持ちを考えると、これを着てあげたほうが親切なんだろうか。
「おっきいなぁ…」
男の人なんだなと、手に取って改めて実感。
私が着たらちょっと丈の短いワンピになるかもしれない。
どうしたものか。上だけでも着てみようか…?
「…よし、着てまえ!」
友香里ちゃんの寝巻きセットの上だけを脱いで、白石君の大きいスウェットに頭を通した。
これならワンピにはならない、ナイスアイディア〜
家に入れないでいた所を助けてくれた訳だし、このくらいのお礼はしないと!でもこれではお礼に入らないか…逆に借り物してる身だし…
袖に腕を通して、自分の姿を見下ろした。
ぶかぶかの黒いスウェットに、友香里ちゃんの可愛い短パンの寝巻きというなんともミスマッチな………
おい、おいおい待てよなんだよ待ってくれ。
スウェットで短パン隠れてどのみちワンピみたいになっとるがな!!
「……先に寝てまうし!」
白石君に色々言われる前に寝落ちしてしまえば何も怖くないのさ。
でも一緒に寝るっていう事実は変わらないままだし、いざ布団に入ったらますます緊張して眠れないんじゃ…
いやいやあんまり考えてると緊張カムバックしてくるからやめて。
必死に無心になりながらベッドの布団をめくったところで動きを止めた。
「危なっ、そういえば歯磨きしてなかった!」
カバンの中の小さいコンビニ袋に入ったままの携帯歯ブラシを持って、スーパーマッハで階段を駆け下りた。
ここはどうにかして白石君がお風呂に入る前に行きたい。
白石君がお風呂に入った後を狙うのも手だけど
もし何も知らない白石君がお風呂場から出てくるなんて事があったら非常に困る。
白石君が入っているだろう洗面所のドアの前に立って急いでノックすると、少し間を置いてドアが開いた。
あ。ちょっっと胸元のボタン開いちゃってるけど…
まだ制服を脱いでない段階なのでギリギリセーフのはず!
「名前…ちゃん…?」
肩で息をしていた私を前に、白石君はひどく驚いた顔をしながら目線を下に向けた。
なんなのその意味不明な反応?と私も同じように目線を下にやった途端、急激に記憶が蘇った。
しもた。急ぐあまりスウェットワンピのまま来てもうた。自分で死にに行ってどうする。
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わらびもち