そういうイベント 

自分の愚かな自爆行動に絶望する中、目の前の白石君は驚きの顔からものすごく嬉しそうな顔になって小首を傾げた。


「どないした?俺のヌードでも見に来たん?」

「歯磨きしに来ました!!」

「なんや、力一杯スルーするなぁ」


律儀にツッコミを入れる余裕なんてこれっぽっちもない。

この際スウェットワンピ事件のことは知らん顔して、一刻も早く歯磨きをして白石君より先に眠りにつかないと

じゃないと恥ずかしさのあまり窓を突き破って脱走してしまうかもしれない。
大丈夫、その時は網戸に引っかからないように気をつけるぜ!!

白石君の有無は聞かず、半ば強引に洗面所へ足を踏み入れた。


「待ってて、すぐ出るから!」

「そんな超特急で磨くん?」

「ううん、歯磨きには時間かけてるけど…」


私が急いで洗面所に来たのは、白石君に歯磨きしに来たのを知ってもらうのと
歯磨きする前に一度口をゆすぎたかったから。

口をゆすぎさえすれば、後は携帯用の歯磨き粉があるから
白石君が服を脱いでお風呂場に入るまでの間、洗面所の外で磨いていればいい。

あとは白石君がお風呂に入ってる隙にまた口をゆすいで、コングラッチュレーション!

手早く口をゆすいだ後、その旨を伝えて洗面所を出ようとしたら、白石君に引き止められた。


「そんないちいち外でやんでも、一緒に磨こうや」

「えっ、白石君も歯磨きするん…?」

「ああ。せやからこっちおいで」


白石君に促され、渋々洗面台の前に立った。

確かに一緒に歯磨きすれば外に出る手間は省けるけど、一緒に歯磨きってなんか恥ずかしくないか…
しかも今こんな格好だし、尚更。

嫌だなぁと思いながら携帯歯ブラシをコンビニの袋から取り出していると、私の後ろに立っている白石君が鏡越しに見えた。


「はっ、背後立たんといてよ、怖い…」

「いや、鏡越しでも名前ちゃん可愛いな〜思って」

「ぐ、歯磨きしやんの?」


さっきも言ったが、私にはツッコミを入れる余裕がない。

こんな格好を見られてしまった後で一緒に寝るのか?
という事で頭がいっぱい上の空〜の私は、空返事で白石君の謎の口説き文句を流して歯ブラシに歯磨き粉をつけようとした。


「名前ちゃん、こっち向いて」

「なん?……!」


背後に立っていた白石君を振り返って見上げようとしたら、くいっと顎を持ち上げられて
そのままキスされた。

触れるだけの軽いキスをした後すぐ顔を離した白石君に、こちらに体を向けるよう肩を引かれた。


「さっきはオカンに邪魔されたからな」


私が驚く暇もなく、2回目のキスをかまされた。

ここにきてこんな展開になるなんて微塵も思ってなかった分、全く頭が追いつかない。

どういう状況?どういう状態?
ついさっきまで、普通に歯磨きしようとしてただけなのに?

しかも今度はめちゃくちゃ長いキスだし、白石君の唇ふわふわしてるし。

洗面所内に響き渡る気がおかしくなりそうな音に耐えながら、ハッとなって目だけを動かしてドアを確認した。

ドアは……閉まってる。
どうやら白石君が閉めておいたらしい。

そりゃこんな事しようと企んでたのなら、閉めておかないとまずい。
もしお母さんに目撃でもされてしまったら大変気まずいだろうに。

しかもスウェットワンピという最低最悪のコンボだし、ああ〜

ドアが閉まっていた事に少し安心した私は、歯ブラシと歯磨き粉を持った両手を白石君の背中に回してしがみついた。
これは、脚に力が入らないな

こんな長ったらしいキスは今までで初めてだけど……嫌じゃない。

繊細なものを扱うみたいに優しくて、白石君の息遣いが熱くて
脳みそがとろけるって表現はこの事を言うのかな〜なんて恥ずかしい事思ったりしてしまう。

まぁひとつ言わせてもらうなら、歯ブラシと歯磨き粉を持ってない状態でして欲しかったくらい。

それなら歯磨きした後の方が良かったんじゃないか…?絶対そうや…


「ん……名前」


白石君が唇を離しながら、アホほど甘い声で私の名前を呼んだ。

だからその不意打ちの呼び捨てやめてって心臓に毒…良い意味で…

バクンバクンする心臓を抑えながら、のろのろと白石君に背中を向けた。


「するなら…歯磨きした後にして…」

「あ、ほんま?歯磨きする前の方がええかな思てしてんけど…ほら、舌入れてしもて」

「いいいわ、言わんでいいからそんな事!」


いい加減歯磨きをしようと鏡に向き合ったら、めちゃくちゃに顔が赤くなった自分と目が合った。

ああもう最悪や、白石君に背中向けても鏡あるせいで赤面してるの丸わかりやんけ!
もう知らん!!

改めて歯ブラシに歯磨き粉をつけた私は、念願の歯磨きを開始した。
ようやく…

相変わらず背後に立っている白石君は、なにやら満足げに笑いながら私の腰に腕を回して抱きついてきた。


「ごめんな?ほんまはこんな事するつもりなかったんやけど」

「んんー……」

「なんかな、無性にムラっときてもうてん」


思い切り胡散臭い顔で鏡の中の白石君を見ると、白石君はやっぱり嬉しそうに笑って、私の耳に顔を近づけた。


「名前ちゃんのその格好…めっちゃかわええわ」


うおおおっ!
いっ、今このタイミングでスウェットワンピに触れてくんなーー!

なんなの、そのまま見て見ぬフリ貫き通しててくれればいいのに!
今世紀最大の羞恥心やぞ…!

恥ずかしすぎて今すぐ窓から飛び出したくて、でも歯磨きの最中なのでどうすることもできなくて泣きそうになっていたら
白石君がふわっと微笑んだ。


「好きやで」

「ふっ……!?うんんんっ!(やめろや!)」

「ははっ、ごめんごめん」


耳元で囁かれただけならまだ良かったが
いや本当は良くないけど、なんで過剰反応したかっていうと
耳に一発チュッとされてしまったから。

普段はこんなに大胆な事しないのに、お泊りパワーってそんなに凄いものなのか…?

そもそも家には白石君のご両親が居るというのに、なんというチャレンジャー心。
逆にそういったスリル楽しんでるー!とかだったら普通に怒り心頭だぞ…

-9-

しおり もくじ
ページを飛ばす(9/16)



わらびもち

わらびもち