そういうイベント 

「名前ちゃん、朝ごはん食べへん?」


ベッドの上でゴロゴロしていたら、顔洗いに部屋を出ていた白石君が戻ってきた。

朝ごはん!そういえばお腹空いた!
いっつもギリギリまで夢の中なので普段は朝ごはんを食べない。だから余計に食べたい!
今日みたいにちゃんと起きられれば朝ごはん食べれるんだけどなぁ、平日に限って起きれない体質だから!


「朝ごはん食べる!……ふんっ」


体を起こそうと反動をつけて一気に起き上がろうとしたら、いまひとつ力が足らず、虚しくも再びゴローンと寝転がってしまった。
くそ、朝ごはんさえ食べてれば起き上がれたに違いないぜ…

朝ごはんパワーもないので仕方なく手をついて上半身を起こしていたら、開かれたドアから顔を覗かせていただけの白石君がいつの間にやら部屋の中に入ってきていた。

白石君は何故かちょっと怒った顔で私を見下ろしている。


「あの…朝からそういうことするんやめてもらえる?」

「えっ?ご、ごめん…つい、朝はダラダラしちゃって」

「ちゃうくて、俺のベッドでそうやってコロコロ転がらんといて。可愛すぎて朝練行く気なくなるわ」


てっきり、朝からだらしないねん!って怒られた思った。
しかも一発で起きれなくてダセェ思わないとか!私なら即座に思っちゃうよ!優しいな!

嬉しくていろいろ調子に乗った私は、白石君の服の袖を掴みながら上目遣いになって言った。


「そんなこと言わんと。朝練がんばって!…蔵ノ介君」

「……」


反応、いや反応。反応いや反応。反応ォォ!!

ちょっとふざけただけやんか。ぶりっこしながら名前で呼んでみただけじゃないか。
ふざ、ちょっとふざけて…いやふざけすぎやろ!調子こきすぎじゃこの朝ハイのヤロー!!

白石君の反応に「5秒前の自分死ぬべき」と後悔していたら、いきなり押し倒された。


「今朝の続き今しよか?」

「すみませんでした」


極めて冷静な顔で謝ると、間を置いて白石君が吹き出した。

つられて私も笑ったが、さっきの謝罪の言葉は調子に乗って白石君を名前呼びしてしまった事についてなんだけど……今朝の続きって何のことだ、記憶が…

私の上に馬乗りになっていた白石君が、ギュウウっと抱き着いてきた。


「俄然朝練頑張れるわ。ありがとうな」

「う、うん…!白石君の帰りまってる!」

「ん?名前呼びはさっきので終わり?」

「あれはちょっと調子に乗りましたすみません。」

「なんでな、名前で呼んでくれてかまへんで?むしろ呼んでほしい。これからずっと」


そんなプロポーズするみたいに言うんじゃないよ下の名前で呼ぶだけなのに…
まぁ5ヶ月経ってまだ苗字呼びの私が圧倒的悪いか。

さっきは朝ハイで調子に乗って呼んだけど、これは、これから先は、白石君を下の名前で呼べる絶好の機会…か?

そうだそうだ、いつまでもヘタってちゃダメだ!白石君は名前って呼んでくれてるんだから!私も!名前で!


「じゃあ、お言葉に甘えて…こ、これからは下の名前で呼ばせてもらおかな…」


自動的にヘタレ発動してしまい、蔵ノ介君とは呼ばずものすごく控えめに賛同してしまった。
さっきのは名前で呼ぶ流れだったとは思ってたものの…無理だなこれは…

自分の意気地なしハートに呆れていると、抱きついたままの白石君が顔を上げた。


「ほな、今呼んで?」

「えっ、今。」


こんな押し倒されてる状態で名前を呼べと。

名前を呼ぶ流れだったことは私もわかってたけども。それは恥ずかしい、恥ずかしいぞ。
さっきは朝ハイだったからよかったものの、今は至ってシラフ。

でも苗字呼びってなんとなく距離があったし、何気に酷い事してたよね…5ヶ月も。
ここで呼ばなかったら完全にKYだ!さあ、呼ぼう!


「蔵ノ介君…」

「うん、名前ちゃん」

「…蔵ノ介君!」

「名前ちゃん!」

「くらのっ!」

「すけっ!てなんでやねん、もー!」


お互いの名前を呼び合ってるうち、気分が高まった私達はハグし合った。

なんだこれ。と思ったけど、蔵ノ介君も結構ノリノリだったし、たまにはこういう謎の交流もいいよね!無駄に有意義な時間だった!
ああいや、蔵ノ介君風に言うならエクスタシーな時間か!

2人でキャッキャと笑いながら、蔵ノ介君に手を引っ張ってもらって体を起こした。


「朝ごはん食べよか」

「うん!お母さん作ってくれてるん?」

「まだ寝とるで?」

「えっ!じゃあ誰が……もしかして、く、蔵ノ介君が?」

「せやで〜?まぁ、簡単なもんしか作れやんけどな」


こんなに幸せな朝を迎える日が来ようとは…
愛しの蔵ノ介君の作った朝ごはんを食べる事ができるなんて、奇跡的に早起きできた私グッジョブ。

「ご飯は炊けてるから〜」と早速部屋を出ようとしていた蔵ノ介君を、すかさず呼び止めた。


「く、蔵ノ介君!先行ってて!」

「ん?一緒に降りやんの?」

「これ、着替えてから…」


着ていたスウェットの胸元部分を引っ張ってみせると、蔵ノ介君はハッとしたような顔をした。

昨日は蔵ノ介君以外の人に見られていなかったから良かったけど、リビングで朝食とってる最中にもし誰か起きてきたりしたら…
そうさ、私は同じ失敗はおかさない!


「制服着てから行くね」

「せやな…着替えやなな」

「うん、服貸してくれてありがとう!」

「俺の方こそ…ほんまは友香里の寝巻きで間に合うてたのに、わがまま言うてごめんな」

「ううん!私が着ようと思ってやった事やし、あの…なんていうか、これ、悪くなかった…?」

「悪いどころか最高やったわ、それはもうめちゃくちゃに。」

「なら私も悔いないです!」


真顔で即答されてちょっと怖かったが、聞いて良かった。
一応は蔵ノ介君を想ってやった事だし…とは言え彼シャツならぬ彼スウェット着てみたいって欲もあったかもしれないな…
ともあれ気に入ってくれてたようで本当に良かった、嬉しい。

蔵ノ介君は記念に彼シャツならぬ彼スウェットを全身で撮りたいとお願いしてきたが、そちらは丁重にお断りしておいた。

そういうイベント
end.

ちょっと白石蔵ノ介視点→→→

-13-

しおり もくじ
ページを飛ばす(13/16)



わらびもち

わらびもち