不幸中の幸いの幸い
城之内さんに連れ出され、人通りのない校舎裏へとやって来た。
城之内さん、名前も顔も知らない男の子だ。
見ず知らずの人が私を呼び出す理由は、大抵予想がついてしまう。
そんな予想をしてしまうのが本当に嫌で、申し訳なくて、いたたまれなくなる。
「あの、俺…キミに一目惚れしました!付き合ってください!」
一目惚れ。素敵な言葉だ。
こんなにも勿体ないことを言ってもらえて、嬉しくないはずない。
でも今の私には虫唾が走るくらいに不快な言葉になってしまった。
中身も確かめず外見から入る人に、ろくな人はいない。あの鬼のような先輩がいい例だ。
だからってみんながみんな、先輩みたいな人ではないとは思うが…今はその先輩を理由に断ることができるから、それだけは感謝。
「ありがとうございます。だけど、その、私には…お付き合いをしている人がいまして」
「あ…そっか、うん!そうだよな!キミみたいな綺麗な子、彼氏いないわけないもんな!いや本当は居るの知ってたんだけど、ごめん。でも、どうしても、伝えたくて。」
「城之内さん…」
そうか、好きな人がいるっていいな。
私もこんな風に、なりふりかまわず人を好きになってみたいもの。
しかも、恋人がいるとわかっていながら、城之内さん…すごいな。
「すごく嬉しかったです。その…勇気出して、伝えに来てくれて…」
「あ、はは。あの、教室まで行っちゃってごめん。なんかもう、自分のことしか考えてなかくて俺…あっそうだ昼ごはん!食べてる途中だったよな!本当にごめん!」
「いいんです、気にしないでください。お気持ち聞けて良かったです。」
「…きみ…って…中身も綺麗なんだね。みんなが噂するだけあるよ。」
「そんな大した人間じゃ…あの…こんなこと言うのはおこがましいのですが、いい人、見つかるといいですね。」
「きみ以外にいない気がする…けど、ありがとう。やっぱりアイドルは陰ながら見守っていかなくちゃいけないよな!」
「はは…は、えっ?」
「こっちの話!これからも友達共々キミを推していくから!こんなとこまで付き合ってくれてありがとう、じゃあ!」
よくわからないことを言い残した城之内さんは、元気よく走り去ってしまった。
詳しい意味はあまり理解できなかったが、あの人は、悪い人ではない。
告白だって、そう簡単にできる事じゃないだろうに。本当にすごいな、城之内さん。
ひとり校舎の裏に取り残された私は、壁にもたれかかりながら胸ポケットの中の携帯を取り出した。
携帯には先輩からもらった、彼仕様のストラップがぶらさがっている。
言わせてもらえばこのストラップ、全く私の好みではない。でも先輩に必ずつけるよう言われているから、仕方なく身につけている。
これを外せる日が、あの人から解放される日が、いつか来るのだろうか。
「名前ちゃん」
伏せていた顔を上げると、先輩が、目の前に、立っていた。
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わらびもち