不幸中の幸いの幸い 

先輩に視線を移すと、今まで見たこともないような驚愕の表情で私の隣の人をガン見していた。

まぁそんな顔にもなるかぁ先輩と言えど。だって二階から降ってきたんだもんな。
情けない顔をする先輩に若干引いていると、先輩は口をパクパクと動かしながら


「あ、跡部…!?」


と、裏返った声で言った。

跡部……この氷帝学園で跡部という苗字は、一人しかいない。

跡部景吾、氷帝学園の生徒会長にしてテニス部の部長。全校集会の時によく見かける氷帝学園の有名人だが。
そんな跡部さんの名前を、なんで今このタイミングで出したのか。

私の隣に居るのが跡部さんだとでも?いやいやいや、まさかそんなわけ〜!


あれっ!跡部さん!?

「アーン?今初認識か?」


隣の顔を二度見して、ようやく横に立っていた人が「跡部景吾」だと認識した。

逆になんで今まで気付かなかった?えっ?それはそれとして跡部さんのこと思いっきりバケツの人って言っちゃったけど!?

バケツの人と呼んでしまった自分に絶望していると、跡部さんが私の前に出た。


「まさか女に手をあげるとはねぇ。」

「なっ…お前には関係のない事だろ…」

「関係ない?この生徒会長である俺様が、貴様のような問題児をみすみす逃すとでも?」

「もぉ、問題児だと…!?」


すごい、生徒会長ってこんな細かいところまで見てくれてるのか!
私たちの事を見つけたのは、恐らくたまたま通りかかったから、だとは思うけど。

でもこんな状況、見て見ぬ振りするほうが楽だし、間に入る義理なんてない。
生徒会長としての信念、貫いてやがる……!

跡部さんが生徒会長で良かったと心から思ってたら、先輩が私を睨みつけながら声を上げた。


「僕は悪くない!そこの庶民が悪いんだ、僕に楯突いたりするから!」

「ほう…?ここまでやっておいて人のせいにするとは、見上げた根性してるじゃねーの。感心だなぁ。」

「何だと!?この僕に対する侮辱は許さないぞ!?」


逆上した先輩は跡部さんの胸ぐらをむんずと掴んで、拳を振り上げた。

跡部さんが殴られてしまう!!
「危ない」と口を開く前に、先輩の拳をあっさりと受け止めた跡部さん。

そのまま胸ぐらを掴んでいた腕を捻りあげた跡部さんは、一瞬にして先輩の体を抑え込んでしまった。

よ、弱っ、先輩、弱い………!!


「いい加減にしろ。みっともねぇと思わねーのか?」

「ぐああっ…!やめ、離せっ…!」

「おい。そこのお前。」


必死に抵抗する先輩の体を抑え込みながら、跡部さんが私の方を振り向いた。


「この野郎に言いたいこと、あるんだろ?」

「えっ…?」


先輩に言いたいこと……?

そんなもの、山ほどある。
けどそれを全部言ってたら日が暮れてしまうだろうから、簡潔にまとめるならば


「わ、私…」

「ぐっ……この、アマ…!」


またもや般若面みたいな顔で睨みつけてきた先輩に、体が強張った。
脳が、心が、恐怖で支配されてしまいそうになる。

でもここでうろたえてしまってはいけない。
恐怖に、この人に打ち勝たなきゃ、私の心は自由になれない!


「貴方にはもう付き合いきれません、私と別れてください!」

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わらびもち

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