手のひらに 

古典の授業からジロちゃんは一睡もする事なく、そのまま放課後を迎えた。
まさかお昼ごはんのあとの魔の居眠りゾーンで一切眠らないなんて。どうなってるんだ。


「あいつどうしたんだ?午前中は必ずと言っていいほど居眠りしてたくせによ。」

「午前中で十分な睡眠をとったとか…」

「それはないだろ。慈郎に限って。」


眠りのジローから眠らないジローになっていた事に、私と亮はざわついていた。

何がこんなにもジロちゃんの目覚めるパワーを高揚させているのか。私と亮が聞いても、何故か笑顔ではぶらかされる。

今から部活だから…いや、亮が言うには放課後の部活も大抵寝てることが多いって。
放課後も跡部さんと打ち合うのか亮に聞いてもそんな予定はないとの事。

疑問だらけの中帰り支度を終え、部活へ向かう亮とジロちゃんを見送った。

さてさて!今日は公園で後輩の子と待ち合わせしてるから、早く行かないと!
今から会う後輩の子は最近できたキスフレの子で、キスしようとする度に恥ずかしがるところがミソだ。

私やジロちゃんに失われた初々しさがたっぷり詰まった、とても可愛らしい子。


「……気になるな…」


校門を抜け、公園へ続く道を歩きながら自然とジロちゃんの事を考えていた。

亮があとでもう一度聞いてみるって言っていたけど、ジロちゃん、亮になら理由言うのかな。
別にそれでもいいさ!後で亮から聞いてやるもんさ!

教室に入る前はキスで元気になったって言ってたけど、流石にあそこまで長くは続かないはず。
でもジロちゃんの感じ方は眠くなる私にはわからないから、確証はないな…

何か別の、別の理由があるはずなんだ。


「……ん?」


なんだ…なんでこんな気にしてるんだろうか。
ジロちゃんが寝ないという事実は珍しい。だが果たしてキスフレに会いに行く道中で考えることか?楽しみにしていたキスをしに行くのに、そんなこと考える必要ある?

え…なんか、もやもやしてる…?

歩道の端っこで立ち止まった私は、ポケットの中の携帯を取り出し電話をかけた。


「…こんにちは。今どこに…ああ、向かってる途中なんだね。うん、うん…その…悪いんだけど今日はちょっと、体調が悪くて…そう、風邪気味だと…うつしたらいけないから今日は…うん、ごめん…」


予定キャンセルのため電話をすると、快く承諾してくれた。おまけに体調の心配まで。本当は仮病なのに…

今は何故だか、キスしたいという気持ちになれない。相手のことを思うなら無理にでも行くべきだったのに、何してるんだろう。

電話を切った後、いわずもがなとてつもない罪悪感に襲われた。
嘘をついて断りを入れてしまって悪いと思う半分、ホッとしてるのはなんなのか…

私は公園へは向かわず、自宅へと直行した。


「……自分から断ったの初めてかもしれないな…」

手のひらに 前編 end.


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わらびもち

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