そういうイベント
……目が覚めた。
窓の外が明るくなりかけていて、部屋の中は薄暗い。
ぼーっとした頭で天井を見つめていたところで、むくりと上半身を起こした。
自分が今ものすごくおトイレに行きたいって事に気付いたからだ。
「?」
そこで初めて辺りを見渡して、私の部屋にしては綺麗だな〜とクエスチョンマークを浮かべた。
まるで私の部屋じゃないような、というか私の部屋の構造ってこんなだっけ。
昨日模様替えでもしてたかな?
ボケっとした頭のままおトイレに行こうと布団をめくった所で心臓が飛び跳ねた。
隣 に 誰 か 寝 て い る !!
声を上げそうになった口を両手で塞ぎながら、バクンバクンする心臓で横になっていた人を見つめた。
そして全てを思い出した。
白石君やこれ!
「ビビッた………心底…」
寝起きの思考回路は本当にポンコツなもので
昨日から白石くんの家にお泊まりしている事を完全に忘れていた。
起きてたら白石君と顔合わせなきゃいけないからって先に寝ようとしてそれから…
覚えてないけど、無事に寝れたようだ。
既に白石君が寝てるってことは、結構時間経ってる?今何時?
白石君にかかっている分のお布団をめくらないようにして、足の方に向かってズルズルとおしりを引きずった。
壁際だと出るとき困難…
手間を省いて跨いでも良かったけど、跨いでる時に起きちゃったら最悪だ。
夜這いかと勘違いされかねないぞ。
ベッドの端に到達した私は床に足をついた。
白石君は…寝てる。よし!
時間を確認するため、カバンの中に入れっぱなしのスマホのところへ向かった。
明るく照らし出されたトップ画面に目をしぼめながら時間を確認すると、午前5:28だった。
めっちゃ早朝…
こんな時間にアラームなしで起きれたのはお泊まりという特殊な状況だからだろうな。
というかおトイレで起きたんだった!
早く行かなきゃ膀胱が!
スマホと、ついでに歯磨きもしておこうと携帯歯ブラシを手に部屋を出ていった。
・
・
「こうっわ……!」
おトイレと歯磨きを済ませ、そそくさと白石君の部屋に帰ってきた。
朝の5時とはいえ、まだまだ部屋の中は薄暗い。
家の人は皆眠っていて起きてるのは私一人。
そんな状況から掻き立てられた不安と恐怖でとにかく死にそうだった。
歯磨きしてる時は洗面台の鏡なんて見れたもんじゃない。もし顔あげた時に後ろに誰か立ってたら……
ぶるぶるっと身震いして、急いでベッドの中に入った。
さっき出たところから、今度は四つん這いになって。
白石君は相変わらず寝てる?
「…起きてる?」
控えめに聞いてみたけど、反応はない。
1人だけ起きてるっていう不安から白石君を叩き起こしてしまおうか悩んだけど、昨晩は先に寝るっていう失礼な行動してしまったし…
壁に背を向ける形で寝そべっていた白石君の顔を覗き込んだ。
寝顔まで綺麗だなあ…
これ本当に寝てる?狸寝入りとかじゃない?
じゃあ、本当に寝てるんなら、ちょっとくっついたりしてもいいかな…
昨日は白石君を避けようと先に寝たくせに、現金な奴だと思いながらお布団の中に入った。
「あったか…」
白石君のぬくもりでお布団あったけ〜〜
そろそろっと白石君の脇の間に腕を通して、ぎゅううっと抱きついた。
反応がないから、本当に寝てるんだな…
そもそも狸寝入りする意味がないわ。
調子に乗った私は、白石君の広くてあったかい背中にほっぺすりすりした。
ハァ〜いつもはこんな事したいと思ってもできないから楽しいな〜
カップルがするやつみたい!
ほらコンビニの前でイチャイチャするカップルみたいな…あれってよく人前で出来るよなぁ、私にはそんな度胸なんて…
でも今は室内アンド誰も見てない、しかも肝心の白石君が寝てるからイチャイチャし放題だ!(?)
「大好き攻撃じゃい」
眠ってるのをいい事に、白石君の背中に向かって甘えまくった。
深夜ハイならぬ朝ハイってやつか…
最初は楽しいだろうけど、徐々に正気に戻ってくるやつだこれ。
でもさっきみたいな不安もなくなってきたし
こんな機会滅多にないから、白石君が眠ってる間に存分に甘えとこ〜!
「名前ちゃん」
「はっ?」
「俺も大好き。」
ほっぺすりすりしてる最中、不意に白石君が首をねじって、こちらを振り返った。
………そんな、そんな、そんな。
頭の中でエコーがかった声が流れた。
うそやん、いつから?いつから起きてた?まさか本当に狸寝入りしてたん?なぜに?
とっさに白石君に抱きついていた腕を引っ込めた。
カチコチになった体に莫大の心臓音が鳴り響いてる。
言葉を失っていると、白石君が寝返りをうってこちらに向き直った。
「ごめん、びっくりした?」
「い、つから起きてた?」
「名前ちゃんが部屋出て行った時からやな。時間見たらまだ5時半過ぎた頃やったから、もう少し横になってよう思ってん」
「………そんなあ…」
「ごめんな。でも俺、めっちゃ幸せやったで?」
白石君が私の手を握ったけど、手汗が凄まじかったので離そうとした。
けれども白石君は私の手を強く握って離そうとしない。
手汗でぬるってするからやめてほしいのに、恥ずかしい恥ずかしい。
とにかく恥ずかしいで頭がいっぱいだ。
「起きてるって聞いたのに、ひどい…」
「ほんまにごめん。なんとなく寝たふりしよかな思って」
なんとなく寝たフリとかやめて…
こっちは寝てると思ってあんな……くそう。
自分のした事に顔を熱くしながら、握られていた手を無理やり引き剥がしてゴロンと寝返りをうった。
好き好き連発してるとこ聞かれてるのに白石君の顔見れるわけね〜!
「なあごめんって、ほんの出来心やってん」
「ちゃう、もう、もうこれは夢や…」
「え、夢なん?」
「そう、夢、現実ちゃうねん…」
「そうか、夢か…」
苦し紛れについた言い訳が「これは夢」って。
ますます恥ずかしい事になってるような気がしてならないが、今の私の頭の中は大パニックだ。
まともな事が言えない。
このまま二度寝する勢いで体を丸めていたら、後ろから白石君がくっついてきた。
さっきの私と同じように脇の間に腕を入れて、ぎゅううっと抱きついてきている。
白石君は吐息交じりに囁いた。
「夢やったら、変な事しても怒られへんよな?」
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わらびもち